忍法帖で未刊行のものがあったと知ったときは驚いた。
本書が刊行されたとき、気を失うのではないかと思うくらい興奮したものだ(笑)。
本書を読了して、あらためて山田氏自身の自作への辛口の評価にヤキモキしてしまった。氏のこの評価ゆえに刊行されない作品がまだあるのではないかと落ち着かなくなってくる。
で、本作なのだが他の忍法帖とくらべてみると中の上くらいの出来だと思った。
そう、いままで刊行されなかったのが不思議なほどおもしろかったのだ。
本書は、忍法帖に散見されるトーナメント形式で物語がすすめられていく。鏡像ともいうべき、敵、味方が同じ人数、同じ技、同じ条件で戦っていくというあのパターンである。
しかし、本書にはそこに三種の神器がからんでくるので、少し様相が変わってくる。
それと時代が室町に設定されているところにも注目したい。柳生と伊賀の戦いを描いているのだが、この時代まだどちらも後年のようにその技が確立されていないのである。だからそこにプロ同士の完成された戦いではないユーモラスな味が出てくるのである。
後年、山田氏がもっともおもしろい時代だと注目していたこの室町時代物のさきがけとなる作品でもあり、忍法帖最後の作品でもある本書はそういった意味でも重要な作品なのではないかと思う。
本書もいつもの例にもれず、やはりラストは壮絶なものとなる。まさしく鮮やかな反転だ。
本書を読んで権力に翻弄される登場人物たちに乾いた哀しみをおぼえるのはぼくだけではないだろう。