タッチは軽いが、なかなかヘヴィな読み応えだ。冒頭いきなり牛乳が出てくるので面食らっていると、どうやら女教師の演説なんだなとわかってくる。中学一年の終業式に担任の教師が教壇の上から生徒たちに一席ぶっているのである。でも、その内容がちょっとおかしい。といって、支離滅裂だとか論調が乱れてるとかいうのではなく、どうも何かの告発に向かって話が進んでいるようなのだ。まもなくして、その真意がわかるのだが、これはここで書いてしまってもネタバレにはならないだろう。女教師の最愛の娘がその中学校で亡くなったらしいのだ。しかも、事故として処理されたその一件が、実はこのクラスの誰かによって殺された殺人事件だというのである。
ここまでが第一章「聖職者」の半ばまでのストーリー。以後第二章「殉教者」、第三章「慈愛者」、第四章「求道者」、第五章「信奉者」、第六章「伝導者」と続いていくのだが、それぞれがこの事件に関わった人たちの告白によって構成されている。こういう試みは目新しいものではない。それぞれの視点から同一の事件を語りなおすという手法は、掃いて捨てるほど書きつくされてきた。
しかし、それにも関わらず本書はおもしろい。ぐいぐい読ませるリーダビリティはなかなかのものだ。ミステリだといっても、どんでん返しや派手なトリックがあるわけではないが、いったいこの事件の行き着く先はどこなんだという興味でどんどん引っぱっていってしまう。そしてラスト。いやーな事件がいやーな展開を経て、最高にいやーな結末を迎えるのである。このあいだ読んだ多島斗志之「少年たちのおだやかな日々」も中学生を主人公にした、いやーな話ばかりだったが、出来は本書のほうが上だ。この人、新人らしいがなかなかの技量の持ち主である。