ダン・シモンズは、日本では熱狂的に迎えられたという感じがしない。「ハイぺリオン」が刊行されていた当時、確かにホラー作品を中心に軒並み作品が紹介されたのだが、それほど話題になっていなかったような気がするのである。「ハイぺリオン」は確かにおもしろかった。長編ながら、各章が独立した短編のような趣向で描かれており、全体像が見えない壮大な物語の幕開けとして数々の謎を残したまま盛大に幕を閉じた。しかし、ぼくは次の「ハイペリオンの没落」で挫折してしまった。イメージについていけなかった。仕掛けいっぱいの壮大なスペースオペラを目の前に敵前逃亡してしまったのである。
ホラー作品についてはどうだろう?と手にしたのが本書「殺戮のチェスゲーム」だった。上・中・下それぞれが六百ページ近くあるこのボリューム。読む前から、その長大さにクラクラしてしまったのだが、これが読み始めるとやめられないおもしろさだった。
マインドヴァンパイアというのは目新しくないとしても、それを軸にこれだけ盛り上げてしまう手腕はさすがだと思った。特筆すべきは、メラニー・フラーの不気味さである。この気の狂った妖怪婆さんとそれを取り巻くゾンビの不気味さといったら、ちょっと他では味わえない。確かな技量を感じさせる。
いまでは品切れになっているみたいだが、これだけの長さの作品は書くのも大変なら、読むのも大変だと思ってしまうのかもしれない。本書は、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学賞、ローカス賞の三冠をとっている。肩書きで作品を評価するわけではないが、多大な評価を得ている作品に間違いはないだろう。人間をチェスの駒にしてゲームをすすめるマインドヴァンパイアたち。こんな強敵にただの人間が勝てるんだろうか?と思ってしまうのだが、物語はなかなかおもしろい展開をみせる。
時間のあるときにじっくり読み進めたいホラー超大作である。