読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国枝史郎「八ヶ嶽の魔神」

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 物語が自在に変化し、まったく先がよめない。型にはまらないというか、大正の時代にこういう話が万人に受け入れられたのが不思議なくらい今でも十分に通用する完成された物語なのだ。妖美幻想でありながらも、物語の骨組が単純なため、とてもおもしろく読了した。

 芯から怖いと思ったのが、諏訪湖の湖底での妖婆のくだりである。

 生首をくわえた水狐族の巫女姿の妖婆が苔むした石棺に腰掛け笑っているというイメージは、まるで悪夢である。未来永劫死ねない『不死の呪い』も今ではめずらしくもないが、当時としてはエポック・メーキングだったんだろう。「神州纐纈城」では、あまりの妖美さで魘されてしまったが、本書は素直に楽しめる。ちゃんと完結してるしね。

 国枝史郎は気になる作家だ。もっと読んでみたい。できれば講談社の伝奇文庫で集めたい。

 あのシリーズは横尾忠則の表紙が素敵だからね。