ディックはまだ三冊目だが(「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」)本書はたしかに以前読んだ二冊とは、印象を異にする。何がどうとかよくわからないが、なんか勝手が違う。
グリマングなんていう超生命体や、絶えず変わりつづけるカレンドの書てのも登場して、あいかわらずインスピレーション満開の奇妙なガジェットには事欠かない。
だが、なんともはや本書はあやういのである。はっきりいって本書のイメージは楽しむとか、おもしろがるとかいう次元を軽々と超えてしまっているのだ。
エイヤッ!で書いたような印象もうけるし、かといって細部の凝りようには素直に感心してしまう。
解説では巽氏が、難しい用語を駆使して長々と本書の解体新書を書いているが、そこからは本書に秘められたメッセージがこれでもかと解説されているにも関わらず、空回りの印象を受けてしまう。
あらゆる干渉をいっさい否定してしまうのが、本書の本当の在りようなのだろう。
でも、そういってしまえばディックの株が上がることになる。
どちらにせよ、ディックは泥まみれの神様なのだ。