読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョン・スラデック「チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク」

チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク (竹書房文庫)

 

  これだけ饒舌だと、なんかロボットとしての無機質さが感じられなくて戸惑う。だって、セクソロイドでもないのに、そういう機能がついていて、そういう事におよんだりするんだもの。読んでいる間ずっとぼくの頭の中で彼が一人の男として描かれていたのも無理ないことなのであります。

 本書はね、そのチク・タクというロボットが過去を回想しているという体裁で語られてゆく。何代にもわたるご主人様に仕えたこのロボット、数々の冒険に巻き込まれているのだが、ぼくは読んでいて、これってアメリカ伝統の『トール・テール』だなと思ったのである。いわゆるホラ話ね。いま、同時に「ポータブル・フォークナー」っていう本も読んでいるので、その影響も受けちゃっているのかもしれないけど、アメリカ南部的な大らかで時に残酷で、でも笑える素っ頓狂なエピソード満載なのだ。

 しかし、それが一筋縄ではいかないんだよね。チク・タクは過去を振り返っている。しかし、それは時系列で語られない。自由に行き来する。だから、興にのって読み進めているとアレ?いつの間にこの時の話になった?とページを遡ったりする。また、ただホラ話を楽しんで読み進めていくのではなくて、そこには思想も入ってくる。思想、哲学、有名なロボット三原則を実用化した『アシモフ回路』なんてのも出てくる。なのに、このチク・タクは人を傷つけるし、命さえ奪ってしまう。

 さて、いったいこいつは何者なんだ?そう思って読み進める。モンティ・パイソン的な狂騒の日々の中で、この悩まない潔いよい、いや潔すぎるロボットはありえない勝利を手に入れ、開眼の中で奇妙な使命に取り憑かれますますヒートアップしてゆく。スラップスティックの常套として大いなる狂気がもてはやされ、負の集積が主人公を成功に導く逆説がまかりとおる。それが笑いを生み、全体をユーモアが包み込んで、血と残酷さを脇へ押しやり突きすすむ。
 機械によって命を落とす話は無数にある。「猿の手」の頃からそれはありふれた悲劇だった。しかし、意志を持った機械は自ら人を傷つけるのか?この恐怖をあらゆる意味において取り除いたのがアシモフロボット三原則だったはずなのに、このチク・タクったら、本当にお茶目さん!