読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョージ・R・R・マーティン「フィーヴァードリーム」

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ジョージ・R・R・マーティンといえば、この人の作品に初めて接したのは早川文庫から出てたアンソロ

ジー「スニーカー」に収録されていた「皮剥ぎ人」でした。この作品ノンストップホラーの傑作で、話の

スピーディーな運びと惜しげもなく晒される血と肉、大胆な描写がとても印象的な作品でした。

ぼくはこの作品でいっぺんにマーティンのファンになってしまいました。

そして、間をおかず出版されたのが本書「フィーヴァードリーム」でした。

南北戦争前のアメリカ南部。蒸気船が主役だったあの時代。

そこで描かれるのは、人間と吸血鬼の熱い友情。

その時代の風俗や、奴隷制度のへどが出そうな無惨な仕打ち。

何もかもが新しく感じられました。

生き生きしている登場人物たち。マーシュがよかった。ヨークがよかった。

吸血鬼の解剖学的解釈も、いまではそうでもないのかもしれませんが、当時はひたすら感心しました。

スタージョンの「きみの血を」と同じくして、少し変化球の吸血鬼物なのですが、そこがよかった。

大好きな作品です。

尚、最近、長らく絶版だったSF短編集「サンドキングズ」が再刊されましたが、これはあまりオススメ

できません。特異な世界が描かれ、ついていけない部分がある。ぼくはそう感じました。表題作のみスト

レートな展開で馴染みやすい作品でしたが、他は、おいてけぼりにされてしまいました(笑)。

最近は、マーティン離れが進行しているようで「タフの方舟」シリーズも「氷と炎の歌」シリーズも読ん

でいません。彼の作品はSF寄りよりホラー寄りのほうが好きみたいです。

願わくば、またホラー作品を書いてくれんことを。


余談ですが、冒頭で紹介した早川から出てたアンソロジーなんですが、これは『ナイトヴィジョン』とい

うシリーズの邦訳版なんです。3人の作家がそれぞれ250枚の中短篇を各巻に書き下ろすという条件のもと

編まれたアンソロジーで、そうすることによって作家自身が自由に発表できるというメリットがうまれ英

米では大好評だったアンソロジーです。日本では、売れ行きが芳しくなかったのか、上記の「スニーカ

ー」と「ハードシェル」が出ただけで、その後はぷっつり途絶えてしまいました。

「スニーカー」は、スティーヴン・キングダン・シモンズ、ジョージ・R・R・マーティンの三人。

「ハードシェル」は、ディーン・R・クーンツ、エドワード・ブライアント、ロバート・R・マキャモン

の三人が収録されていました。ここで言及しておきたいのが、マキャモンの短編「ベスト・フレンズ」で

す。この作品は正真正銘の傑作でした。

只のサイコスリラーかと思わせる導入部から一気に非現実の世界がひらけ、あとはただもう、あれよあれ

よという間にラストまで。ここに出てくる三匹の怪物のイメージの強烈なこと。アドルフ、フロッグ、お

袋さんの三匹は、非現実ながら妙に生々しくて、おぞましい。悪夢そのものの存在でした。

キングもクーンツもどちらかといえば長編よりの作家であり、短編はもひとつという感がぬぐえません

が、マキャモンは、長短どちらも器用にこなす作家だと思いました。彼の唯一の短編集「ブルー・ワール

ド」は、中、短おりまぜて収録されていますが、これも読み応え充分の傑作短編集でした。

こちらも強くオススメしておきましょう。

おっと、予想外に余談が長くなりました。

今回はこのへんで。