あれは、ぼくが小学生の頃。
学校の帰りに、友達の家に寄ったぼくは黄昏時の赤くなった空を見ながら、家路をいそいでいた。
冬、澄んだ空気がピンと張りつめて風が頬に痛い。
人通りのない、田舎の道。はやく、家に帰って暖かいコタツに入りたいと思いながら急ぎ足で歩いていた。
事が起こったのは一瞬の間だった。
前方から来た車が、ぼくの目の前で少しブレた。何が起こったのかよくわからなかった。少しブレてスピードを落とした車は、すぐにアクセルを踏み込んで走りすぎていった。
車が走りさったあとに、白い物体が転がっていた。
激しく動いている。
ゴロゴロ道を転がり、その動きはまるで出鱈目、むちゃくちゃだ。
よく見ると、それは車に轢かれた猫だった。
気が狂ったように、動いている。
ぼくは、目が離せなかった。とりつかれたように見入った。
すると、猫の頭の部分から何か長くて白いものが出ているのが見えた。白いものの先には、白いぐんにゃりした物体がついている。
目玉だ。目玉が飛び出して、視神経でつながっているんだ。
ぼくは、目が離せなかった。鬼気迫る光景だった。
どうすることも出来ず、凍りついたようにその場に立ちすくんでいた。
やがて、猫は力つきピクリとも動かなくなってしまった。
さぞ、苦しかったろうと思うと、涙が出てきた。
こんな死に方するなんて、あまりにもかわいそうだ。
涙があとから、あとから出てきた。
すると、その時奇妙なものをみた。
あとから思えば、涙に滲んだ目に黄昏時の光線が反射したのだと思い込んだが、いまとなるとあれは本当に起こったことなのかもしれないと思い始めている。
ピクリとも動かない猫の額から、赤い煙のようなものが出てきたのである。
それは、まるで竜巻のように旋回しながら天に昇っていった。
真偽のほどは、いまだわからず。
猫の魂よ、安らかなれ。