読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

舞城王太郎「煙か土か食い物」

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 最近というか、読んだのはもう何年も前なのですが、本書をはじめて読んだ時は、その異様なまでの文章に完全にノックアウトされてしまいました。

 この人、福井出身ということで、物語の舞台も福井なら登場人物の話す言葉も福井弁。でも、そのいままでになかったシチュエーションがとてもクセになる。

 特に、その福井弁のカッコよさといったら、土着的な粘質性と感情が爆発してるような軽快さに思わずうなってしまいます。

 この人の作品は、読者を選ぶんでしょうね。でも、いったんハマれば舞城ワールドから、おいそれとは抜け出せやしない。

 本書は第19回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー作。

 メフィスト賞といえば、ちょっとクセのある作品が目白押しで、中にはとんでもない内容のものも少なくないっていうのを経験で知っていたぼくは、正直本書も読むのをためらっていました。

 しかし、好意的な書評と賛辞の嵐にいぶかしみながらも手にとってみれば、もうひとたまりもありませんでした。たちまち、この異様でエネルギッシュな世界のとりことなってしまいました。

 では、何がそんなにスゴイのか?ということなんですが、舞城ワールドに不可欠な要素として、残酷さと愛の天秤作用というものがあると思います。

 彼の作品では多くの血が流れ、あまりにも異様な事件が語られます。また、のちに続く数々の長編では、極端に暴力的な世界が描かれたり、常識の範疇を超えた現象や人物が登場したりします。ここらへん、評価が大きく割れるところだと思いますが、彼が描くそれら異常な世界に通低音として流れてるのは『愛と平和』へのメッセージなんです。

 彼が描く恋愛は、血と暴力にまみれていながらも、異常なSEXにまみれていながらも、おそろしくロマンティックでセンチメンタルなんです。

 人間が、人間として真っ当に生きることで、世界を変えれるんだというような前向きな思考や、平和を愛する慈愛に満ちた母性的なメッセージ性にあふれているんです。

 だから、ぼくは彼の作品が好きなんです。

 最近は、新刊出てないんで少しさみしく思ってるんですが、これからもどんどん書いていって欲しい人ですね、この人は。