読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

アイラ・レヴィン「ブラジルから来た少年」

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 本書の魅力は、サスペンスにあります。いったいどういうサスペンスなのか?本書の巧みな点はそこにあります。

 全体を覆うナチスの影、第1章からピンッと張り詰めた緊張感に包まれ不穏な空気が漂い、読者はあれよあれよという間に話に引き込まれてしまう。そしてこれが本書の最大の魅力なんですが、なぜナチスの残党が世界に散ばる65歳の公務員の男性を94人も殺さなければいけないのか?いわゆるミッシング・リング物ですね。彼等の共通点はなんなのか?意外なことに物語のなかばで読者はこの真相を知ることになります。しかし、それでも本書のテンションは下がらない。それからラストまで、一気に突っ走ってしまうんです。

 う~ん、さすがに時代を感じさせる作りではあるが、それにしてもウマイ。いま読んでも十分おもしろい。不気味な余韻を残すラストも定番といったらそれまでですが、それでもやはり不穏な感じで気味が悪い。たぶん、この頃のレヴィンには『書の神様』が乗り移っていたんでしょう。それぐらい、本書は完成された良質のスリラーなんです。