島田荘司の御手洗シリーズは大概読んできたのですが、初期の作品にくらべて中期にあたる作品群は、謎の提示は魅力的なのに、解決にいたって肩すかしをくらってしまう作品が散見されました。
それでも、出れば読んでしまうってことはやはり魅力あるんでしょうね。
そして、本書。
本書もまたミステリー面に関しては、およそ満足できるものではありませんでした。一応論理的解決は成功しているのですが、やはり肩すかしの感はぬぐえない。
しかし、そんな破綻したミステリであるにも関わらず、ぼくは本書にかなりの思い入れがあるんです。
それはなぜか?
本書の構成は二部構成になっています。
かのホームズ長編によくみられた構成なんですが、どうしたことかこの二部構成、片方は大きなウエイトを占めるにも関わらず、本筋のミステリにはあまり関係ないんです。
でも、その関係ない部分がめっぽうおもしろい。
本書で語られるその関係ない部分は、あの有名な女吸血鬼のエリザベート・バートリ。歴史上に実在した人物です。ハンガリーの名家に生まれ、美貌を保つために若い女性の生き血を浴び、それを飲んだといわれる戦慄すべき人物。
本書の前半で語られるこのエリザベート・バートリの血まみれの物語は凄かった。
彼女に捕らえられた少女が、数々の危機にあいながら城を脱出するまでの話は、頭の血管が切れるんじゃないかと思うほどの絶体絶命の連続で、本筋そっちのけで楽しめました。
この部分を読むだけでも本書の価値はあるんじゃないかと思えるほど、このパートは素晴らしい物語となっています。
ゆえに、ぼくにとっては忘れられない作品となりえているんです。
ちなみに島田作品で、一番素晴らしいミステリーはと訊ねられれば、ぼくは迷わず「占星術殺人事件」だと答えるでしょうね。