読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

池井戸潤「空飛ぶタイヤ」

記憶は風化する。それが自分の体験でなければなおさらだ。必ずそこにあったはずの事実はボヤけて曖昧な心象の中に埋もれてゆく。確かにぼくは本書がモデルにした事故を知っていた。本書が刊行された2006年当時、ああ、あの事故のことを描いているのかと…

綿矢りさ「ひらいて」

デビュー作の「インストール」以来だ。途中の過程がごっそり抜けてる。そんなぼくは、この最新刊を読んで目を見開いてしまった。 なんだ、これは。すごいじゃないか。あきれるほどに、惹きつけられてしまう。久しぶりに震えるような期待と身を引き裂かれるよ…

山田風太郎著 日下三蔵編「神変不知火城 山田風太郎少年小説コレクション②」

本書は論創社から刊行されている山田風太郎少年小説コレクションの第二弾なのである。風太郎のジュブナイルは結構書かれていたみたいで、いままで廣済堂文庫(「天国荘奇譚」「青春探偵団」)や光文社文庫(「笑う肉仮面」「天国荘奇譚」「怪談部屋」)で刊…

レオ・ペルッツ「夜毎に石の橋の下で」

1600年前後のプラハなんてまったく馴染みのない世界で、以前に皆川博子「聖餐城」を読んだ時には、よくこんな時代を舞台にしたものだと舌を巻いたものだった。世界史に疎いぼくは、この時代のドイツ、オーストリア、チェコ、イタリア北部らが一つの国家…

舞城王太郎「短篇五芒星」

五つの短篇が収録されている。タイトルは以下のとおり。 「美しい馬の地」 「アユの嫁」 「四点リレー怪談」 「バーベル・ザ・バーバリアン」 「あうだうだう」 相変わらずタイトルを見ただけではどんな話か見当もつかないのだが、いつものごとくふざけてい…

マイケル・バー=ゾウハー「エニグマ奇襲指令」

ナチス・ドイツが使用していた実在の暗号機『エニグマ』。ドイツ軍はこの暗号機を占領下のフランスに27台所有していた。そのうちの一つを悟られることなく盗みだす。この限りなく不可能に近い密命を帯びて、かつてゲシュタポから金塊を盗んだことのある大…

東雅夫編「文豪怪談傑作選 特別篇 文藝怪談実話」

ちくま文庫のこの文豪怪談傑作選は一冊で一人の作家が描く怪談話を特集していて、まことに魅力的なシリーズなのだが、あいにくぼくは一冊も読んでいない。こういう怪談話はやはりアンソロジーのほうに惹かれるのだ。本書にはタイトルからもわかるように近代…

三橋淳「昆虫食古今東西」

昆虫というと嫌悪をしめす人が多い。あきらかに動物とは違う形状に、あの無機質で機械的な動作が受け入れがたいのだろう。ぼくは虫に対してさほど抵抗はない。田舎に住んでいたので幼少の頃から虫はいつも周りにいた。また、それらの虫を使って様々な実験観…