読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

オースティン「自負と偏見」

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 かつて、文豪モームが世界の十大小説に選出したこともある本書は、読んでみればなんのことはない、幾組かの男女の恋愛模様を描いた、いたってノーマルな恋愛小説だった。

 1800年代の長閑なイギリスの田舎で繰り広げられるドラマは、まるでコントのように大仰で、おそろしく回りくどく、現代のぼくたちの暮らしぶりから見れば、なんて現実離れした世界なんだろうと思ってしまう。時にそれは失笑を誘い、豊かな人間観察の上に描かれる少々デフォルメされた人物像はその笑いをさらに増幅させる。一つの家族の上に連なる数々の挿話が折り重なり、それが糸を引きながらラストに向ってぱたぱたと閉じられていくさまは、やはり回りくどいなと思いながらも、最後まで読んでしまえばそれも本書の良い部分での持ち味なんだなと感じられるから不思議だ。

 ただ、ぼくにはこのベテラン訳者の中野好夫訳がどうも肌に合わなかった。言い回しや、文章の組み立て方に少し違和感があって、馴染めなかったのだ。他にもこのオースティンの代表作はいろいろな訳者が訳しておられるが、ちょっと拾い読みした限りではちくま文庫から出ている中野康司訳が一番親しみやすかったように思われる。

 ま、それはおいといて、大仰な時代の伝統ある英国の雰囲気がぷんぷんしている本書は、その一見とっつきにくい外見の中に、あまりにも普遍的でいつの時代も変わることのない人間ドラマが凝縮されているのである。だから、本書はいつまでも読まれ続けていく。いつの時代にも読まれ、エリザベスとダーシーの反発しあう運命にある二人の行く末におもいを馳せるのである。

 というわけで、これで思う存分『ゾンビ』に取り掛かれる。いやはや、なんとも長い前置きだったなぁ。