読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

綿矢りさ「憤死」

イメージ 1

 四編収録。巻頭の「おとな」はとても短い作品。ここで語られる奇妙な出来事は、おそらく綿矢りさの実体験なのでは?それにしても、最後の『ねえ、おぼえていますよ。ほかのどんなことは忘れても、おぼえていますよ。』という部分で慄いた。奇妙な出来事の淫らさと、それを体験した五つの女の子の本音。なんとも怖い一編だ。

 

 次の「トイレの懺悔室」が、本書の中では一番気に入った。ぼくも知らなかったんだけど、地蔵盆って主に関西の風習だったんだね。あたりまえだと思ってたから、なんか不思議な感じ。これがあるからこそ、ああ、もう夏休みも終わりだなあって、夏休みの宿題に本腰入ったんだけどね。で、内容なんだけど、これは先の展開が読めない仕上がりで、不気味さは本書の中で随一。もっともっと怖かったら良かったんだけどね。でも、昔はこんな人いたよなあって思う。ここに登場する親父の親密さと内包する歪みは、毒蛾のようだ。それに影響受けてしまった彼も可哀相な存在だよね。

 

 表題作は、『憤死』というあまり馴染みのない言葉をめぐる、これも歪んだお話。とりあえず『憤死』って調べてみると【激しい怒りのうちに死ぬこと。憤慨しながら死ぬこと。】だって。そんな怒りで死ぬなんてある?まあ、自分のこれまでの人生の中で、怒りで我を忘れてしまうほどの仕打ちや裏切りにあったことなんてないけど。本書で紹介されているグレゴリウス七世や陸遜、日本では菅原道真が憤死しているそうなのだが、いったいどんな死に様なんだろうね。そういうレアな題材をもってくるところに作家としての資質を認めてしまいます。佳穂ちゃん、死ななくて良かったね。

 

 ラストの「人生ゲーム」は、そのまま「世にも奇妙な物語」ベースのお話。一人の男の子ども時代から人生の終末までが描かれる。男性が主人公ということで「トイレの懺悔室」もそうだったけど少し違和感があるね。ま、それはおいといて、本編はこの短編集の中では一番まともなお話。まともっていうのは、歪みがなかったってこと。ストレートすぎる展開で、そういった意味では面白味はなかったかな。お手本的なお話だ。

 

 ということで、綿矢りさの初の試みだと思われる少しホラー・テイストの作品集、なかなか良かったんでないの?でも、もっと突き抜けて本谷有希子の「暗狩」みたいな作品書いて欲しいなあ。

 

すごく怖いの書けそうな気がするんだけどね。