読書の愉楽

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階知彦「シャーベット・ゲーム オレンジ色の研究」

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 本書に登場する女子高生・穂泉沙緒子は、自分の知り得る情報を最大限に活かして推理するいわば演繹法を駆使するホームズ型探偵だ。ワトソン役である和藤園子がはじめて彼女に会ったとき、沙緒子は園子のフルネームからクラス委員をしていることまでピタリと当ててしまう。かのホームズとワトソンがはじめて出会ったときのように。


 そのロジックは完璧で、観察に基づく情報から引きだされる帰結は的を外すことはない。たまたま居合わせたコンビニに入ってくる客を見ただけで、それが強盗だと見破る沙緒子。そして彼女の活躍で見事強盗は捕まってしまう。しかし、その強盗事件はさらなる事件の幕開けでしかなかったのである。 

 
 ラノベブランドだが、本作はかなり高度な論理ミステリとして構築されている。正直いって、ここで展開される事件の動機に関しては、あまりピンとこない。少し無理があると思うのだが、しかしそれを補ってあまりある事件のプロセスの再構築は素晴らしい。なぜ、そうなったのか?何が作用してそういう結果になったのか?まるで緻密に計算された数式のように見事にすべてのピースがピタリと収まる。


 あたりまえだ。そういうミステリを作者が書いているのだから。いやいや、ぼくがいったい何を言いたいのかというと、この作者、久しぶりにロジックを堅牢につくるミステリ作家だなと感心しちゃったってことなのだ。さきほども書いたとおり動機に関しては、ちょっとついていけない感じがしたが、その他はパーフェクトだと思った。いま現在すでに次の巻が刊行されていて、ぼくも続けて読んでいくつもりだが、この先この完璧な探偵が苦悩するような事件が描かれるのか、とても楽しみなのである。被虐的な喜びではないがどうもぼくはエラリイのような苦悩する探偵が好きなのだ。金田一耕助みたいに過失を過失だと自覚していない探偵はいやだけどね。