読書の愉楽

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城平京「虚構推理」

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 ここに展開する驚異の物語はいままで見たことのない世界を見せてくれる。いや、こんな書き方したらまだ読んでいない人に誤解されちゃうね。本書は、純粋な本格推理の骨格をもった妖怪小説であり、限りなく非現実な世界を描きながらも透徹したロジックに支えられたハイブリットなのであります。

 人の想像力が結集して生まれた最強の怪異『鋼人七瀬』。不可解な死をむかえたアイドルそっくりの巨乳、フリルの目立つ赤と黒のミニスカート、頭に大きいリボンをつけて二メートルくらいの鉄骨を携えた顔のない姿で人を襲う亡霊。都市伝説と思われていたこの怪異が本当に存在して人を襲っている?そう存在しちゃうのである。本当に存在してあろうことか人を殺してしまうのである。

 これに対抗するのは幼い頃にもののけたちに誘拐され、一眼一足の怪異の巫女となった岩永琴子。そして、その彼氏にして『人魚』と『件』の肉を食べ、不死の予知者となった桜川九郎。

 さて、そこで問題である。どうしてこれが本格推理なの?どこにそんな要素があるの?読みはじめるまで誰もがそう思うはずだ。そこで引っかかってくるのが本書のタイトル。

「虚構推理」?虚構って実際にはないものってことだ。作りあげられたものによる推理?う~ん、まだよくわかんないな。でも、物語は面白いからどんどん読んでしまう。この岩永琴子のキャラクターがなかなか秀逸。美少女でありながら一眼一足。そして異常に下ネタが好きという変態っぷり。物言いも変わっているし、なんか面白い。怪異が日常となり、それが当たり前に出てくるのにも慣れて、読者は虚構の世界にあそぶことになる。

 そしていよいよ本書の真の骨格である本格推理部分があらわれる。人の想像が作りだした『イドの怪物』である鋼人七瀬。いわば虚構である脅威の化物をどうやって退治するのか?それを怪異の巫女である岩永がやってのけちゃうのである。虚構には虚構をもって制する。万人の総意として実体化した鋼人七瀬をこれまた万人の総意でもって亡きものにする。これが虚構を虚構で制する必殺の奇妙なロジックなのである。いったい、どうやってその荒行を成しえたのか?それは実際読んで確認してほしい。ここで展開されるロジックは、これを掌中のものにできればなかなか素晴らしい論者になれるんじゃないかと思う巧みな論法を展開している。

 さあ、未読のミステリ好きの方々、本書を紐解かれよ。