読書の愉楽

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ルネ・ナイト「夏の沈黙」

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 破格のデビュー作なのだそうである。本書の出版権をめぐって熾烈なオークションの争奪戦が繰りひろげられ、最高の高値で落札されたのだそうな。で、その内容が、引っ越しのゴタゴタの中で紛れ込んでいた本を読んでみるとそこには20年前の自分の事が書かれていたというなんとも魅力的なもの。しかし、これが読んでみるとなんともまだるっこしい話であまり先へ先へという気にはなれなかった。

 

 まず読者として気になるのが、いったいその本に何が書かれているのか?ということだ。もちろんその内容がすぐにわかるわけはなく、作者は時系列を前後させて告発された者と告発した者を描きわけ、背景を塗りかためてゆく。20年前にあったある事件。そこに関係している幾人かの人々。核心はたくみにはぐらかされ容易にこちらには知れない。

 

 物語の半ばぐらいからその全容が浮かび上がってくる。隠さなければいけない出来事。夏の秘密。太陽の下の死。

 

 しかし、ぼくはそこにサスペンスも感じなければ、サプライズも感じなかった。また、この一連の出来事に巻き込まれてゆく人々を横目に、なぜか心が冷えてゆく感覚から抜け出せずにいた。どうも本書に登場するすべての人々に関して共感をもつことができなかった。あまりにも身勝手で顧みない行動が胸クソ悪かった。それに輪をかけてストーリーが平坦だった。そこにもっとカタルシスやサプライズがあればまた違った感想になっていただろうが、本書で描かれる謎の真相は予想の範囲を越えるものではなかった。

 

 それにしても、ぼくは納得できていない。読了してすべてが詳らかになったいまでさえ、物語の要となるある出来事の真の動機がどうにも理解できない。いったいどういう心理でそういう行動をとるのだろうか?贖罪?いやいやそれだと、それ以前の行動とまるで反比例してしっくりこない。なんなんだろうね、この無理っぽさは。それとも真の部分だと思っていたことが実はまた裏返っていたということなのだろうか?未読の方はなにをいっているのかさっぱりわからないと思うのでどうか自分の目で確かめてほしい。

 

 ぼくがいったいなにをいっているのかを。なにに対して理解しがたいと思っているのかを。