読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ランサム・リグズ「ハヤブサが守る家」

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 本書は成立過程がおもしろい。作者自身が蒐集した古い写真を元に、そこから物語を紡いでいったというのだ。フタを開けてみれば、物語自体は決して完成度の高いものではなく、一昔前のアニメの原作かとおもうような展開に稚拙な印象を受けるのだが、それでも古写真とのコラボはなかなか楽しめた。本当はまったく繋がりのない古くて奇妙な写真なのに、それが物語の世界観を確実に植えつけてゆく。本来なら視覚効果は読書をする上で不必要なものであり、想像の自由を奪う要素として作用するはずなのだが、使われている写真が古くて不鮮明なものやおよそ現実的でない奇妙なものばかりなので、余地が生まれ想像力の飛翔をあまり妨げず、逆にわずかながらもサポートする仕上がりになっている。

 

 しかし、さきほども書いたとおり物語自体はお粗末なもので、いくらYA作品だといってもこれは少し難があるのではないかと思った。ネタバレになってはいけないのでどういうストーリーなのかはここでは詳細に語らない。こういう内容は、あまり本を読みなれてない読書初心者なら楽しむことができるかもしれないが、予想を裏切る展開がすべて進んではいけない方向に向いているところがぼくには引っかかったのだ。安易というか、ヒネりがないというか、まさかそういうオチじゃないよね?と思っている方へどんどんズレ込んでゆくのが興醒めだった。嘘や法螺をつくのはいいが、それを現実に近づける工夫がまったくないから物事がすべてストレートに伝わってしまってもろい骨組みが目立ってしまう。言いかえれば突飛な発想をもっともらしく語る説得力が皆無なのだ。これはぼくの考え方が古いのかも知れないが、この部分はどうしても目をつぶることができないのだから、どうしようもない。

 

 というわけで、試みとしてはたいへん意義深く楽しいものだったが、中身はさほどでもなかったというのが正直な感想だ。本の造りはカッコいいんだけどね。