読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

野村美月「文学少女と慟哭の巡礼者」

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相変わらずうまい。基本、恋愛絡みのストーリー展開になってしまうのはラノベの王道ともいえるので仕

方ないのだが、それにしてもこの話の盛り上げ方はどうだ。三人も子どもがいる、いい歳こいたおっちゃ

んが真剣に読み込んでしまうのだから、このシリーズはやはりホンモノなのである。登場人物各人の思惑

が錯綜し、ああだこうだと手前勝手に考えて悩んでしまう青春の苦悩なんて、掃いて捨てるほど使いふる

された青春物の定番なのだが、それがこの作者の手にかかるとズシンと胸に響く一級品に仕上がってしま

うから恐れ入る。

だが、今回は男としてかなり腹の立つ話だった。とにかく心葉の振る舞いが腹に据えかねた。もしかした

ら、この感情はぼくだけが感じることなのかもしれない。なぜならば、ななせ信者にとって今回の話はと

ても痛い展開だったからだ。あまり目くじらたてるのも大人気無いのでこれ以上は書かないが、とにかく

心葉の振り回されっぷりに、そうじゃないだろお前と何度も嘆息してしまったのだ。

今回、物語自体が大きく動きだした前回の巻を受けてようやくあの美羽が登場したのだが、やはりこの女

タダモノじゃなかった。暗い過去を引きずる心葉に覆いかぶさるように、不穏な空気を漂わせる美羽の存

在感はなかなかのものだ。そこで醜い人間関係を浄化するように今回取り上げられた題材は宮沢賢治「銀

河鉄道の夜」だったのだが、これがまた心憎い演出でストーリーを盛り上げる。

表立って描かれるカムパネルラとジョバンニの危うい友情関係と、それを掘り下げて賢治が物語にこめた

真実の意味を対比させる終盤の部分などは、いつものことながらよくこれだけ上手く題材を料理したもの

だと感心した。

さて、次に番外篇をはさんでようやく物語は終局を迎えることになるのだが、とにかくぼくはななせに花

を持たせてやりたいと願っている。これは男の甘さなのだろうが、そういう決着を見ないとどうにも納得

できかねるのでございます。