読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006年 年間ベスト発表!

昨年は翻訳本のみのベスト10でしたが、今年はこの一年で読んだ本の中から翻訳、国内問わずジャンル

も問わず選出いたしました。

■1位■ 「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ早川書房

 静かに語られる残酷な真実。この本はおそらく年間ベストの上位にくる作品だろうとわかっていたので
あえて年末まで読まずにいた。ぼくの判断は正しかったというわけだ。


■2位■ 「あなたに不利な証拠として」ローリー・リン・ドラモンド/早川ポケットミステリ

 事実が持つ重みがしっかりと作品に定着している。今回は短編集だったが、是非ともこの作者の長編が読みたいと思った。手法的には何も特別なものはないのに、この余韻は得がたいものがあった。


■3位■ 「キッズ アー オールライト」岡田智彦河出文庫

 胡散臭いなと感じていた読み始めが、読了したときには賞賛にかわっていた。物語の展開があまりにも自由で驚いた。これは稀有な才能だ。


■4位■ 「99999」ディヴィッド・ベニオフ/新潮文庫

 素晴らしい短編集。それぞれ手をかえ品をかえ、まったく飽きさせない。この短編集の中では「悪魔がオレホヴォにやってくる」「幸せの裸足の少女」「幸運の排泄物」がぼくのべスト3である。


■5位■ 「聚楽 太閤の錬金窟」宇月原晴明新潮文庫

 これは伝奇小説の傑作だった。歴史的事実と作者の空想が見事に融合して、絢爛たる世界を描ききっている。燃える城のプロローグから、家康が死の床でつぶやく鮮やかなラスト一行の一言まで、間然することのない傑作である。


■6位■ 「独白するユニバーサル横メルカトル」平山夢明/光文社

 この人は、ことさらグロテスクな面を強調されているが、ぼくはその独創性を賞賛したい。オリジナルをもう一歩突き抜けてしまった至高の境地を見せつけられた。やはり、この人は天才である。


■7位■ 「世界の果てのビートルズ」ミカエル・ニエミ/新潮社

 スウェーデンの文学だからといって敬遠しても侮ってもいけない。『おもしろうてやがてかなしき』青春の日々がいつまでも余韻として残る作品だった。極寒の地で繰り広げられる驚くべきエピソードの数々を堪能した。ほんとうにクレストブックスは最高だ。


■8位■ 「銃とチョコレート」乙一講談社

 参りました。本書も「おっ!こうくるか!」という展開が楽しい作品だった。ぼくの好きな『毒』が描かれているのもうれしかった。スタイリッシュな世界に持ち込まれたこの『毒』が本書の旨みである。


■9位■ 「大吸血時代」ディヴィッド・リズノウスキ/求龍堂
 
 吸血鬼物は色々読んできたが、本書はエポック・メーキングだった。まだまだこんな手があったんだ。吸血鬼の子育て物語なんて、誰が思いつく?それを完璧に描いてみせたのが本書なのだ。う~ん、これは良かった。ラストも大満足の大団円で、ほんと堪能させてもらった。 


■10位■ 「シャルビューク婦人の肖像」ジェフリー・フォードランダムハウス講談社
 
 さすが、ジェフリー・フォード。この人は幻視者として群を抜いている。結晶言語学者、血の涙を流して死んでゆく女たち、そしていっさい姿を見ずに肖像画を描くという無理難題。とにかく奇想スレスレの世界に酔わされた。


というわけで10作品選出したが、次点として万城目学鴨川ホルモー」、野沢尚「深紅」をあげておき

たい。前者は、まったくの新人ながらツボを押さえた物語の構築具合が絶妙で、作者のセンスの良さにノ

ックアウトされた作品。後者は、物語前半の緊張感が只事ではなかった。これだけでも一読に値すると思

う。傑作だと思った。

こうして見てみると今年は新刊がメインのベストテンになったようだ。ぼくにしたらめずらしいことだと

思う。これも、このブログを始めた影響だと思われる^^。こうして、読書の地平はどこまでも、どこま

でも広がっていくんだなあ。

今年はこの記事が最後になります。どうかみなさま、来年もよろしくお願いいたします。