この作品は、いまでは角川ホラー文庫から「腐蝕」というタイトルで出ている。
はじめて本書が世に出てきたのは昭和61年、新潮文庫からだった。
当時はSFスリラーとして刊行されていたが、まぎれもなく本書はホラー作品である。SFの設定ながら、主人公ティナが体験する崩れていく日常はとにかく怖い。
ティナに感情移入しやすいっていうのも大きな要因だ。もう、ほとんど一心同体となって物語を追ってしまう。ティナの身にふりかかる災いが、かなりのショックをもって感じられる。
後半、一気に舞台が変わってしまうが、それからがノンストップ。ラストまでページを繰る手が止まらない。
正直、ラストは少し不満がないでもなかったが、それを考慮してもなお本書の魅力は薄れない。悪夢と現実が気味悪くリンクしたこのホラーは、読んだのが二十年近く前だというのにいまだに強く印象に残っている。
完成された作品ではないが、なかなかのインパクトだったということだろう。