読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

木下古栗「グローバライズ」

 

グローバライズ: GLOBARISE (河出文庫)

グローバライズ: GLOBARISE (河出文庫)

 

 

 抵抗力に自信がないわけではないし、好き嫌いはあまりないほうだと自負している。本書を読む前はなんてことないんだろうと思って、しかし幾ばくかの期待も少しとりまぜ、なんとなく浮ついた心もちで挑んだわけなのだ。まず巻頭の「天然温泉 やすらぎの里」だ。小手調べだね。この作者はいったいどんな手を使ってくるのか?どんな世界を見せてくれるのか?

 あ、こういう感じ?投げてくる感じ?現実と不条理が一体になってんのね。こういう話はいままで何度も何度も読んできましたとも。国内海外問わずこういう展開は数限りなくありますからね。で、そのまま次の作品「理系の女」へ。切り取られる日常の風景。どこかの街角で毎日繰り返されているありきたりな風景。専門的な分野の話があふれ、次第に読者を取り込んでゆく。しかし、そこで唐突にあらわれる非現実。というか、日常とあまりにもかけはなれたある事実。これは効果的だった。あまりにも鮮やかで感動すらした。ある意味ホラーでもあり、このままサスペンスフルな展開になってもおかしくない予兆を孕みながら、あくまでも日常が続いてゆく。この感じはいい。しかも突飛すぎず、収まっている。次の「フランス人」も同パターンで幕を開ける。専門分野の話、日常の風景、シチュエーションが固まったところで、新たな展開。笑える。ぼくもやったことがある。痛いんだよね、これ。この世の終わりかと思っちゃうんだよね。でも、そこに挿入されるさらにおかしい別世界。ああ、こういう書き方ね。これはぼくも好き。受け入れちゃう。これが繰り返されるとギャグになって可笑しいんだよね。

 この人はこんな感じなのか。技巧はないけど計算は感じられる。エイヤッて感じで書かれたものではないんだよね。しかし、その後につづく9編は、すべて似たりよったりで新奇さは皆無だった。飛び散る血、迸る糞尿、噛みちぎられる乳首。日常がいきなりそういった嫌悪をしめす方向へいきなりシフトする展開は、こればかりを見せられるとうんざりしてしまう。シチュエーションが変わってゆくだけで、新味がまったくないのだ。

 こういうのばっかりだったら、もうこの人の本は読みませんよ。いってみたら一発ギャグを何度も見せられてる感じなんだもの。ラストの表題作なんて、ああた、もう、破綻が血まみれになって地球が割れてきたところへおっきなうんこが落ちてきて世界が真っ白になっちゃう・・・・みたいな話なんですのよ。

 

グローバライズ: GLOBARISE (河出文庫)

グローバライズ: GLOBARISE (河出文庫)