読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2015-01-01から1年間の記事一覧

宮部みゆき「ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意」

『決意』と名付けられた第Ⅱ部では、渦中の城東第三中学の生徒たちが事件の真相を追及するべく学校内裁判を開こうと奮闘する姿が描かれる。これは、常識で考えればまさしく茶番でしかない。現役の中学生、それも受験をひかえた三年生が一番大事な時期である夏…

平山夢明「デブを捨てに」

『最底辺で蠢く人々、場末の饐えた匂い、無国籍めいたフランクなネーミング、情や倫理とはかけはなれた世界で描かれる最低最悪な物語たち。』 これは前回の短編集「暗くて静かでロックな娘」を読んだときに書いた平山作品への感想である。 また、「ダイナー…

森岡浩之「突変」

『突変』とは、突然変移の略だ。どこかの場所が異世界と入れかわってしまう。それがいつ起こるのかもなぜ起こるのかもわからない。そして、その入れかわってしまう場所がどこなのかというのもわかっていない。異星だという説もあるし、並行世界だという説も…

スティーブン・キング/ピーター・ストラウヴ 「ブラックハウス(上)」

キングとストラウヴの共著である「タリスマン」の続編なのである。しかし、続編といっても本作はほとんど独立した作品であって、前作を読んでなくてもなんら支障はない。ただ、「タリスマン」の世界を経験した読者だけに与えられる特権として、ある種のノス…

パトリック・デウィット「シスターズ・ブラザーズ」

ゴールドラッシュに沸く、無法者たちの天下だったウェスタンなアメリカ。まさになんでもありなこの狂乱の時代に名をとどろかせる殺し屋シスターズ兄弟。気に入らないことがあるとすぐに銃をブッ放す豪放で大酒のみの兄チャーリー、本書の語り手であり気はや…

宮部みゆき「ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件」

もう文庫落ちしているが、ずっと以前に購入してあった単行本を読了。「ソロモンの偽証」第一部 事件編である。この話は「小説新潮」で連載されていたのを知っていたのだが、ずいぶん前から書き継がれていたので、多大なる期待を寄せていた。調べてみれば連載…

川のほとりで

記憶にある風景と違うなと思いながら歩いていると、道を横断している大きな川につきあたった。 冷たい風が川上から吹いて、ぼくは思わず首をすくめた。左に目を向けると一人の男に群がる数人の女が目に入った。見てすぐに背筋が寒くなったのだが、女たちも男…

丸谷才一「横しぐれ」

丸谷才一の作品は、読めば必ずなんらかの影響を受ける。それは小説技巧であったり、主題のおもしろさであったりするのだが、とにかくその刺激はぼくの背筋をかけのぼり、とてつもない喜びをもたらしてくれる。 本書に収録されているのは四つの短編。表題作は…

エレナ―・アップデール「最後の1分」

とある田舎町で爆発事故が起こる。本書はその事故が起こる一分前の出来事を、一章一秒で描いていく異色作だ。舞台となるヒースウィック・ハイ・ストリートは昔ながらの建物が軒を連ねる静かな町。最近はそこにチェーン店のコーヒーショップが進出してきて、…