読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

岸川真「暴力」

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 三編収録。本のタイトルの通り理不尽で唐突で理解しがたい暴力が描かれる。
しかし、ここで描かれるそれぞれの話は、過剰さを含んだ非情な行為だけが描かれるのではなく、多かれ少なかれ信条を貫く根本にある思想が幅をきかせている。
その感覚は、まるでプロパカンダともとれるくらい明白で、横溢している。いってみれば危険分子だね。これを、ただ単純に描かれる事柄の表面だけをなぞらえて咀嚼してはいけない。作者は、物の道理を見極めて、真実の答えを導き出そうとしているように思うのだ。

ま、そんな御託はどうでもいいか。ぼくとしては二番目の「P ET」がとてもおもしろかった。幾つもの要素が絡まりあって盛り沢山だ。地上179メートルの高層マンションから投げ落とされたペットボトル。砕かれる頭蓋骨。発砲で鼻梁から上を吹き飛ばされてしまった若い女性の頭部。地元の人間とハイライズに住む参入組との確執。そして地震。なんのこっちゃ?と思われるだろうが、読んでるぼくでさえ、なんのこっちゃと思っているのである、しかし、これが結構刺激的で、知識も深まったりするからおもしろい。日常生活の中で誰もが感じるささやかな啓示、閃きを導くヒント、困難をやり過ごす解釈の度合。そういった、単純に割り切れない日々の思考実験みたいなものが感覚的に描かれていて、思わず立ち止まってしまう。

巻頭の「蹴る」は、まさしく暴力のみを描いた短い作品かと思わせて、結末が予想の上をいったので驚いた。土偶って!

ラストの「ヘリックス・B」は、ぼくには合わなかった。社会とか政治とかは趣味じゃない。文学寄りのぼくからしたら、ちんぷんかんぷんなのだ。

それにしても、河出書房新社はおもろいね。翻訳物も力入れてるし、こらからも期待かけていきますよ。