読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

カレン・M・マクマナス「誰かが嘘をついている」

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 居残りで理科の実験室にいた5人の生徒。その中の一人が突然苦しみだし病院に搬送されたが死亡する。死んだサイモンという生徒は自身で校内のスキャンダラスなゴシップを暴く情報アプリを運営していて、その場にいた他の4人の生徒もそれぞれサイモンに秘密を握られていた。サイモンの死因は、アレルギー反応によるアナフィラキシーショック。彼が苦しみ出す直前に飲んだ水に何かが混入していたらしい。4人の中に犯人はいるのか?誰が嘘をついているのか?


 というなかなか魅力的な謎で幕を開ける本書は、しかし本格ミステリとして読んでは少し期待外れなのだ。ま、これはぼく個人の見解なんだけどね。それより本書を魅力的な読み物としているのはド定番なのだが青春群像劇としての要素。本書の構成は登場人物たちがそれぞれ語る形になっていて、男女取り混ぜて、なかなか個性的な面々が登場する。彼らがお互いを思いやり、また疑い、その中で恋愛が生まれ別れが生まれる。


 これが読ませるのである。思惑、せめぎ合い、つのる思い、新しい発見、隠されていた秘密。様々な要素が絡まりあい事件の真相にむけて物語が集約されてゆく。いまのアメリカの高校生たちの生々しい姿が映し出され、それが歯がゆくもありバカバカしくもあり、おもしろくもある。


 ここに登場する生徒たちは、この事件を通じて人間の悪意や良心や怖さや思いやりなどを身をもって学んでゆく。それは、一種のイニシエーションだ。かなり特異だけどね。でも、その出来事を経験することによって彼らは成長する。ぼくたち読者は、その過程を滋味として受けとる。


 本書はそうやって楽しむ本だ。現役の高校生も、かつて高校生だった人たちもそうやって本書を楽しむべきだ。ぼくは、そう思うのである。


 くれぐれもいっておくが本書に謎解きミステリのカタルシスを求めてはいけない。それは二の次なのだ。


 ヤングアダルトとしては、だからいい線いってるんじゃない?