読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

アーサー・ブラッドフォード「世界の涯まで犬たちと」

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 本作の感想にはいるまえに、今日『このミス』をパラパラ見てきたのでその感想を少し。

 

 注目したのは『わが社の隠し玉』のコーナー。どうやら来春にはフロスト警部にまた会えるらしい。これはうれしい情報だ。なんせ前回の「夜のフロスト」が刊行されたのが2001年だからね。いまから楽しみで仕方がない^^。それと小学館文庫から今月刊行されたジョー・ヒルの「ハートシェイプト・ボックス」の紹介文が気になったので、その場で実物チェックしたら、なんとこの作者あのスティーヴィン・キングの息子らしいということではないか。ほんとうなのだろうか?それと早川から今月14日に刊行されるスカーレット・トマス「Y氏の終わり」は、いま「本が好き!」の献本でゲラが手元にあるので読み進めているのだが、なかなか好感触だ。近々記事をアップしたいと思う。

 

 あと『このミス』とは関係ないのだが、ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」が文庫になっていたので解説読んでみたらどうやら来年中には短編集の第二弾が刊行されるらしい。これもとても楽しみである。
ということで、この記事とは関係ないことを書いた。では、本作の感想をば。

 

 最近のアメリカでの短編がおもしろいってことは周知の事実なのだが、本作もかなりおもしろかった。感触的にはエイミー・ベンダージュディ・バドニッツそれとアダム・ジョンソンに似た感じで、奇想というか、へんてこりんというか、なんともうれしくなってしまう世界が描かれる。

 

 ミュータント犬が登場したり、大きなナメクジが出てきたり、口からカエルを産んでしまう少女がいたり犬と交わり子どもをつくってしまったりと節操がない。これだけ抜き出して羅列すると、なんてグロテスクな世界なんだと嫌悪感をしめす向きもおられるかと思うが、ご心配なく。その点はまったく問題ない。

 

 この作者の手にかかると、普通に書けばグロテスクになってしまう事柄がまるで当たり前の出来事のように感じられてしまうのである。まったくもって奇妙な世界なのに、それが語り口の平易さゆえかそれとも奇を衒うことない演出のせいか、すんなりと受け入れられてしまうのである。

 

 各短編はとても短い。はっきりいって起承転結のような構成をもったものも少ない。放りっぱなしというか、唐突というか、普通ならここで終わらないでしょうという部分で話が終わってしまったりする。でもそれがまたいいのだ。繊細な配慮を感じてしまう。こういう書き方もあるんだなと感心した。

 

 どうやら、ぼくはこの作家が気に入ってしまったようだ。やっぱり、いま、アメリカ作家の短編がおもしろい。オススメである。