裏の山で遊んでいると、友達のおーちゃんがいなくなった。
気づくのが遅かったので、おーちゃんはアダマ・ユキエさんに連れていかれてしまった。
アダマ・ユキエさんは山に潜む『連れさり人』で、二人以上で行動していると大丈夫なのだが一人になってしまうと何処かからあらわれて連れ去ってしまうのだそうだ。
油断したのがいけなかった。
ぼくたちはニ人で遊んでいた。山の中で追いかけっこするのがおもしろくてついついエキサイトしてしまったぼくらは、知らぬ間に離れ離れになってしまっていたのだ。
アダマ・ユキエさんは子宝に恵まれなかった姑獲鳥の一種で、子供をさらってきては自分で育てようとするのだが、育て方がわからないのですぐに死なせてしまうらしい。
おーちゃんは死んじゃうんだ。ぼくの親友のおーちゃん。一緒にせんべいも食べたし、一緒にプールも入ったし、一緒にサッカーもしたおーちゃん。おーちゃんがいなくなったら、さびしいよ。
でも、このままじゃいけない。もしかするとまたやってくるかもしれない。
ぼくは辺りを見回した。夕方の薄暗い木立の中、ぼく以外に生き物の気配はない。少し風が出てきてて、揺れる葉の鳴らす乾いた音だけがぼくを包んでいる。
いや。
何かごそごそ動いてる音がしなかったか?大きな生き物が動く気配がしなかったか?
もう一度辺りを見回す。何もいない。とにかくぼくは山を降りはじめた。
ぼくは泣いていた。おーちゃんを失った。いまは、ぼくも狙われている。
怖い。死の恐怖が、ぼくを硬直させる。ぼくは死んじゃうのだろうか。アダマ・ユキエさんに殺されてしまうのだろうか。爆発しそうなほど激しく鼓動する心臓がノドから飛び出してしまいそうだ。
流れおちる汗が目に入って、涙といっしょくたになって目が見えなくなる。
藪の中に突っ込んでしまい、顔や腕にクモの巣が絡みつく。枯葉に覆われてみえなかった根っこの隆起につまづいて転んでしまう。起き上がろうとするぼくの背にアダマ・ユキエが覆いかぶさってくる。