読書の愉楽

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乾くるみ「イニシエーション・ラブ」

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 ブログ内での評判や、つい最近文庫化された経緯からこの作品はぜひ読んでおきたいと思っていた。

 とにかくラストで世界が反転するすんごいミステリだということで、もうワクワクしながら読み進めていったのである。

 物語的には、本書はミステリではない。謎もないし事件も起こらないんだから、推理小説ではないのだ。

 本書の眼目はそこにはない。いってみれば本書はトリック小説とでも呼ぶべきもので、作者が仕掛けた大技に驚く小説なのだ。本書を読んだ誰もがいうように、最後の最後でその仕掛けが天地を引っくり返す。

 読者はそこで一瞬思考が停止してしまう。え?どゆこと?いったいどうなってるの?

 そしてまた最初に戻って、いったい自分がどこで勘違いしてたのか、作者が何をやらかしてくれたのか再確認せざるを得ない状況に追い込まれるのである。

 読んでる最中に何度か引っかかる部分はあったのだ。でも、その時点では何が起こっているのかはわからない。最後まで読んではじめて作者が作中に散りばめた多くの伏線がにぶく光を放ちはじめるのである。

 そして再読。なるほど、そういうことなのか。ふむふむこのA面、B面ていう章割りにも意味があったんだ。ここで、彼女のセリフがぎこちなかったのはそういうことだったのか。男女7人とはねぇ。

 とまあ、こんな感じですべての謎が再読によって氷解するシステムになっている。そういった意味では、本書ほどリピート率が高い本はないのではないかと思ってしまうほどだ。

 しかし、正直なところぼくはそれほど本書を評価しない。確かに作者の術中に見事にハマッてしまったわけだが、パズラーとしてよく出来た小説だと感じただけで、どちらかといえば印象の薄い作品だった。

 おそらく半年もすれば、記憶の彼方に消えてしまうことだろうと思われる。なぜ、そうなるのかというと本書で描かれているのがありきたりな男女の恋愛ゲームだからなのだ。読んでいておもしろくなかったわけではない。最後までスイスイ読めた。だが、読了してみると結局本書で描かれていたのは、よくあるアノ話なんだなと冷めた目で見てしまったのである。

 本書がミステリとして評価できないのは、そういうことなのだ。おもしろくないわけではないのだが、それまでの作品だ。ちょっと期待ハズレだった。

 でも、大仕掛けは十分堪能できるので、それは期待通りだったといえる。なんとも複雑な感想だ。

 それにしてもコオロギ爺さんって誰なんだろう?これだけが唯一のこった謎である^^。