読み始めた当初、正直いってあまりテンションが上がらなかった。
まず右手がカニのハサミ状になっているビリィの正体がなんなのかわからないまま進んでいく物語にちょ
っと不満だったし、作者の用意する言葉の奇抜さが鼻についてなかなか入り込めなかった。
しかしそんな不満も44ページで拳銃が登場した瞬間、一気に解消されることになる。はっきりいってこ
こからの展開は凄い。思いもよらない展開にのけぞってしまった。そうなってくると不思議と作者に対し
て抱いていた不信感が改善されていくから我ながら勝手なものだと思う。
本書はまったく新しいわけでもないのだが、すごく新鮮でかなりおもしろい。先を読ませない展開が、こ
れほど気持ちよくこちらの予想を裏切ってくれるのもめずらしい。そういった意味では、ここに描かれる
一連の出来事は多分にミステリ的だともいえるだろう。それが証拠に、ラスト近くでは一度ならずアッと
思ったくらいだ。
荒削りなクセに妙に計算高く、かといってそれが足枷になるわけでもなく話はとどまることを知らず大き
くふくらんでゆく。う~ん、これはいいですぞ。過激な暴力描写に辟易する人もいるかもしれないが、ぼ
くはこれを肯定する。
いったいどこへ行き着くんだと思うくらい自由奔放に広がっていく快感がたまらない。
こんな奴いないだろうと思っていても、それがリアルに感じられるから不思議だ。
まさしく稀有な才能。ちょっと目が離せない人ですよ、この人は。