北村薫氏の紹介で、この作家のことを知った。
サキやフィッツ=ジェイムズ・オブライエンなんかに通ずるテイストをもっていながら、尚且つ時代を
感じさせない普遍的な魅力を備えている。
簡単に各短編の寸評いってみましょうか。
◆「豚の島の女王」
本書の表題作になってもおかしくない作品である。昔からよく使われている題材を扱っているのだ
が、異国的な雰囲気と比類のない不気味さを兼ね備えた作品で、その奇想は一頭ぬきんでている。
冒頭に配されているのは慧眼、この作品で心をつかまれない読者はいないだろう。
◆「黄金の河」
秘境物。『トクテ』というゲームが出てくるが、それに使われる『ティクトク』という実に秘密が
ある。ダールの短編のような感触だ。
◆「ねじくれた骨」
これも設定が秀逸。オチもヒネリがきいてておもしろかった。
◆「骨のない人間」
秘境物。といってもSFだなこれは。ラストで明かされる真実が不気味さに輪をかけている。
◆「壜の中の手記」
アメリカ文学史上最大の謎とされているビアズ失踪に新たな光をあてて、奇妙な味を残す。
しかし、表題作のわりに、それほどのインパクトは受けなかった。
◆「ブライトンの怪物」
はっきりいって、これがかなりインパクト強かった。怪物の正体は途中でわかるのだが、これがか
なりショッキングである。しばらく引きずってしまった。
◆「破滅の種子」
おもしろいアイディアだ。ほんとうにあってもおかしくないところが、不気味である。
◆「カームジンと『ハムレット』の台本」
一種のコン・ゲームもの。このカームジン氏は、唯一のシリーズキャラクターなのだそうだ。
◆「刺繍針」
短いながらも、ソツなくまとまったミステリーである。この凶器の使い方は、昔よんだ大友克洋の
短編マンガを思い出させる。ブラックな小品である。
◆「時計収集家の王」
おもしろい。魅力的な話である。次にどうなるかがわかってしまうが、その効果は絶大だ。
◆「狂える花」
ありそうもないことを、もっともらしく書くのが小説のもつおもしろさなら、これはそのアイディ
アに舌を巻いた作品。一種のマッドサイエンティストものだ。説得力がある。
◆「死こそわが同志」
どんどん大きくなる話の行方が恐ろしい結果を予感させ、やはり最後は大カタストロフィとなって
しまう。何でも手に入れてしまった男がどうしても手に入れられなかったもの。こういうサブストー
リーが、深みを与える。
以上十二作、ハズレなし。この満足感は、そうそう得られるものではない。