読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ベルナルド・アチャーガ「オババコアック」

本書はなんの予備知識も持たずに読めば、なかなか翻弄されてしまう本なのだ。どういうことかというと本書は三つのパートに分かれていて、それぞれが独立したものとなっている。面白いのは、それがリンクし合っているとか、最後に円環が閉じる構成になってい…

皆川博子「戦国幻野 新・今川記」

今川義元というと桶狭間において大軍を率いていたにもかかわらず、はるかに少ない兵で奇襲をかけてきた信長に討たれたまぬけな将という印象しかなく、戦国大名のくせに公家のようなお歯黒に化粧をしていたという変わり者でマイナスの印象しかなかった。ドラ…

喪失する夏

山の中をくねくねとS字に曲がりながら道は続いていた。 父が死んだ時、ぼくは高校生だった。夜中というか朝方に入院していた病院から連絡が入り、母が起しにきたが寝ぼけていたぼくはまったく起きず、母だけが病院に行ったときには、もう父は亡くなったあと…

ジョー・ホールドマン「我は四肢の和を超えて」

「はるこん」というSFファンが主催するコンベンションが2010年から続いていて、毎年、春に国内と海外からゲストを一人づつ招いてさまざまな企画を行っているのだが、その中の一つに往年のSFファンにはおなじみのハヤカワSFシリーズの銀背とそっく…

メルヴィル「ビリーバッド」

こんなに短い物語なのに、これを読み通すには通常の倍以上の時間が必要だった。たとえ新訳でも、これほどに読みにくい文章があるのかと目を見開くおもいだった。メルヴィルとはなんと一筋縄ではいかない作家なのか。大仰な言い回し、肯定か否定かわからなく…