読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

吉田修一「悪人(上下)」

上巻を読んでる間はなんて下世話な話なんだとちょっとゲンナリしていた。それほど新味のある展開でもないし、出てくる人達みんな落伍者みたいな感じで、なんとも気の重たい話じゃないかと少々うんざりしていたのだ。匂い自体は大岡昇平の「事件」や清張の諸…

ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝  ファージングⅠ」

本書で描かれる世界は、IFの世界である。専門用語でいうところの歴史改変物というわけだ。では、どういう世界になっているのかというと、英国とあのナチスが講和条約を結び戦争が終結した世界になっているのである。ふーん、なるほど、で?それがどうした…

聖ベアトリーチェの黒棺

今度逢うときは前世でね、と変な挨拶をして彼女は去っていった。西日に向って目をすがめながら手をふっているその姿に違和感をもったが、その時は何がおかしいのかわからなかった。 でも、よくよく考えてみると今日の彼女は確かにおかしかった。食事の最中に…

チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」

十三の中・短編と漫画が一編収録されている。SF文庫で刊行されているが、ぼくが読んだかぎり本書の作品群はどちらかというとSFというよりホラーに近いものだった。 すべての作品に共通するのはいいしれない不安である。ミエヴィルはほとんどの作品におい…

本谷有希子「乱暴と待機」

この人やっぱりおもろいわ。いまだかつてこんな変な話読んだことなかったもの。 本書のストーリーをかいつまんで紹介すれば、なんて変態ちっくな話なんだと思われてしまうだろうが、敢えて紹介してみよう。 まず、一組の兄妹が出てくる。この二人は一緒に長…

スペンサー・クイン「ぼくの名はチェット」

本書は一応ハードボイルドミステリーの体裁になるのかな?私立探偵と失踪人探しとくれば、やっぱり王道でしょ?しかし、語り手は犬なのだ。だから決してハードボイルドにはならないのである。 タイトルにもなっているチェットが本書の主人公なのだが、これが…