読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

上田早夕里「火星のダーク・バラード」

SFの意匠をまといながらも、本書の骨格はミステリ。舞台は火星。限られた範囲内のみを地球と同じ環境にするパラテラフォーミングで住環境を整えられた世界でハードボイルドな物語が描かれる。 火星治安管理局の水島捜査官は女性ばかりを殺すシリアル・キラ…

米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」

ミステリとしてのサプライズを期待すると少し肩すかしだ。連作短編集として機能する本書は、各話が語り手を介して完結する構成をとっている。そこに派手な趣向はなく、信用できない語り手という常套としてのサプライズ以上のものはない。そこに生まれるミス…

梁石日「さかしま」

梁石日といえば、はじめて彼の作品に接した「子宮の中の子守唄」を読んだときの衝撃が忘れられない。あの作品で描かれる世界は、同じ日本でありながらぼくが生きてきた世界とはまったく違う世界で、こんなことがあるのか!と何度も衝撃に身を震わせた。未読…

マリオ・バルガス=リョサ「つつましい英雄」

ストーリーは奇数と偶数の章に別れ、同時進行する。奇数章の主人公はピウラで運送会社を経営するフェリシト・ヤナケ。ある日彼は自宅のドアに張りつけてある青い封筒を発見する。それは、静かな筆勢で事業を保障するかわりに月500ドル支払ってほしいと書…