読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

マリオ・バルガス=リョサ「つつましい英雄」

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 ストーリーは奇数と偶数の章に別れ、同時進行する。奇数章の主人公はピウラで運送会社を経営するフェリシト・ヤナケ。ある日彼は自宅のドアに張りつけてある青い封筒を発見する。それは、静かな筆勢で事業を保障するかわりに月500ドル支払ってほしいと書かれた脅迫状だった。まわりの忠告を無視してフェリシトは、この脅迫に屈せず、立ち向かう決心をする。偶数章で描かれるのはリマで保険会社を経営するイスマエル・カレーラという八十代の老人がメイドと再婚することからはじまる騒動だ。彼は引退を考えていたが、心筋梗塞で倒れた時に、二人の息子が遺産を手にするために自分の死を望んでいることを知り、彼らに遺産を残さないことを決意、その信念で生還し報復にでたというわけだ。このそれぞれの物語にリョサの本ではお馴染みの面々が登場する。奇数章ではリトゥーマ軍曹が、偶数章ではあのドン・リゴベルトの家族が登場する。

 
 これだけのおもしろ要素がそろっていながら、ぼくは本書をあまり楽しめなかった。話的には、ストーリー重視の至極わかりやすいもので、ある意味物足りない気もしたし、技術的な面でいってもリョサがよく試みる会話の不連続な挿入や、場面の瞬間移動など「アンデスのリトゥーマ」の時はすごく新鮮で刺激されたが、本書では見栄えがしなかった。訳文もあまりこなれていず所々でもっと飲み込みやすい文章にできるだろうとやきもきした。


 読みやすさと並列して語られる賛辞が多いような気がするが、本書はリョサの作品の中ではあまり出来のいいほうじゃないと思う。でも、リョサの作品はこれからも読んでいくけどね。