良さそうだと思って読んだら、期待以上に素晴らしかったんでびっくりしました。この短編集、後になる
につれて傑作が揃いぶみで、特に印象深いのがラストの「八番目の海」と「大酒飲みのベルリン」。前者
はこの短編集の中でも数少ない普通小説。だから余計目立ったのかも知れない。この人、奇抜な設定に頼
らなくても凄いの書いてるじゃんって感じ。後者は、とにかく話が魅力的。主人公の少女がいい。ラスト
にも感心しました。自立した人格と少女期特有の危うさが微妙にリンクして秀逸。表題作はアダム・ジョ
ンソン版「三つの短編」。そう、あのエイミー・ブルームの傑作と同じ構成をとっている。しかし、そこ
はアダム・ジョンソン流に味付けがなされてて、こちらは視点の変化とともに時間まで進行しちゃって
る。いやあ、ウマすぎるぞこの作家。「アカプルコの断崖の神さま」も話の展開がまさにツボ。異彩を放
つ「カナダノート」も、シリアスな状況をコミカルに味付けしてしまう手腕に舌を巻きました。一番短い
「ガンの進行過程」は性の目覚めを扱いながらも、月並みになりがちな話を様々なガジェットを盛り込ん
で盛り上げる好編。全部書いていったら長くなっちゃうんでここらへんで切り上げますが、とにかくこの
短編集捨て駒がひとつもない。うん、久々に短編集読んで興奮してしまいました。