読書の愉楽

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リチャード モーガン 「オルタード・カーボン」

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 遥かかなたの未来の話なんで、感覚としては現代と戦国時代くらいの文明の隔たりがあるんですが、一番のアイディアはタイトルにもなっている「オルタード・カーボン」。人間の心がデジタル化されメモリー・スタックに保存されているんです。だから、肉体が損傷して機能を果たさなくなってもスタックさえ無傷で残っているなら、新しいスリーヴ(肉体)にダウンロードして再生可能なんです。その他、道を歩いてると勝手に頭の中に入ってくるヴァーチャルなブロードキャスト広告や、身体改造してまるで風太忍法帖に出てくる忍者みたいになっている人たちなんかが出てきたりして、ほんと映像的な驚きに満ちています。

 ちょっと考えさせられるところもありました。人間の在り方について、みたいなこととか。精神と肉体を同じくするのが個だという概念が真っ向から崩されてしまうのだから、その奇妙な感覚を受け入れるのに頭の中を何度もリセットしました。錬金術の時代から人間は不老不死を夢見てきたわけですが、それがこんなカタチで実現したら興醒めもいいところだと思います。

 それはさておき、やはりこの話はハリウッド大作映画的派手派手路線まっしぐらって感じで、ホント楽しめました。ただ、ハードボイルドのテイストは弱い。主人公のタケシは、ほんとタフで頭もいい。でも、おそろしくメロウな奴なんです。彼は元『エンヴォイ・コーズ』という特命外交部隊に所属していた殺人兵器みたいな男という設定なのですが、ここぞという時に甘い甘い。ちょっと設定とひずみが出ちゃってる。一応ミステリ基本の物語なんで謎があるのですが、それの真相にしてもモチベーションがちと弱い。

 「オルタード・カーボン」の世界でしか成立しないってとこがミソなのですが、う~ん、カタストロフィーはなかったなあ。

 という感じで、なんかマイナス要素ばかり書いてるような気がしますが、プロット的にはおもしろい展開があって、こういう展開初めてだったので、とても新鮮でした。生粋のSFファンにとっては細部のディティールで首を傾げるところがあるのかもしれませんが、総合的には気軽に楽しめるSFって感じでおもしろかったと思います。