なんとも贅沢なフルコースだ。
やはりブランドはすばらしい。16作品すべてが満足のいく作品だった。
英国ミステリの最良の部分を堪能したという感じだ。すさまじいまでの本格ひねりオチが、これでもか
というくらい味わえる。
はっきりいってブランドは少し高みから見下ろして、読者をあざ笑っているという感じがする。かしこ
すぎるのだ。手玉にとられた読者としては、歯軋りしたくなるほど腹が立つはずなのだが、そんな余裕
はない。あまりにもあざやかな手並みなので、唖然としてしまうのである。
「カップの中の毒」や「ジャケット」や「この家に祝福あれ」のような、ちょっとブラックな感じの話
も絶品だし、ラヴゼイにも通じるテイストの「血兄弟」も秀逸だし、世評高い「ジェミニー・クリケッ
ト事件」、「スケープゴート」等も、頭の軋る音が聞こえるんじゃないかと思うほどスリルあふれる謎
解きが快感だった。
とにかく、この短編集は傑作である。未読の方はぜひ読んでいただきたい。
もうひとついい忘れていたが、本書に収録されている「ジェミニー・クリケット事件」には、別バージ
ョンのエンディングがある。本書のは英国版。もうひとつは米国版である。この米国版、早川から出て
いた『37の短編』に収録されていたのだが、長らく入手困難だった。それが、北村薫氏によってめでた
く復活したのである。角川文庫から出ている「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」がその本。
これでずっと不明だった二つのエンディングの読み比べができるようになった。
ぼくの好みからいえば・・・・いや、この答えは伏せておきましょうか。