本書が刊行された当時(1990年)は前人未踏のトリックなどといわれたものだ。
この映像不可能というトリックはいまではさほど目新しくもないのだろうが、当時はなかなか楽しんだ
憶えがある。
このトリックは、まったくのアンフェアである^^。だが、筒井康隆がこういうトリックでミステリー
を書いたというところにぼくは一種の快感を感じてしまうのだ。あの「アクロイド殺し」もおよびでな
いのだ。
真相を知ってから読み返すと、さらに楽しい。ものは書きようである。ほんと舌を巻いてしまった。
まさしく綱渡り。「皇帝のかぎ煙草入れ」も真っ青^^。
古典的な舞台であまりにもオーソドックスな事件が描かれているだけのこの作品は、おそろしく挑戦的
なアンチミステリなのだ。
でも、本書はトリックだけのミステリではない。ラストに到って犯人の痛みを感じやりきれない思いを
味わった。本職でない分野なのに筒井康隆大健闘なのではないだろうか。彼のミステリでは、有名な「富
豪刑事」の前例があるが、トリックの大胆さでは本書の比ではない。
でも、「富豪刑事」の中でつかわれてた密室トリックにはなかなか感心したおぼえがある。
みなさんは、そんなことないですか?