読書の愉楽

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ジャック・フィニィ「ゲイルズバーグの春を愛す」

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ファンタジーの定番である。

時間を戻すことに執念を燃やした作家ジャック・フィニィの傑作短編集が本書なのだ。

過去には郷愁がつきまとう。ジャック・フィニィがノスタルジーの作家といわれる所以だ。

この短編集に収められている短編のすべてがそういう話ではないのだが、どうもノスタルジーがこの作

家の匂いになってしまってるみたいで、どの短編を読んでもその匂いはする。

これが本書の最大の魅力だろう。やさしさにも似た郷愁やロマンティックな香り。それを最大限に味わ

えるのがこの短編集なのだ。

中でも一番ノスタルジックでせつない作品はといえば、やはり「愛の手紙」だろう。

この作品のことを悪く言う人とは口を聞きたくないと思ってしまうくらいだ。

なんてやさしくて、せつなくてロマンティックな話なんだろう。

これ一作だけでフィニィのことを好きになってしまうくらいだ。

その他表題作も素晴らしいが、なんといっても印象深いのは「大胆不敵な気球乗り」である。

このイメージは素晴らしい。夜空に浮かぶ気球のイメージがいまでも脳裏からはなれない。

もう読んだのがン十年前なので、確かでない部分もあるかもしれないが、とにかくこの短編集はオスス

メである。なんせ、ヤングの「ジョナサンと宇宙クジラ」、ティプトリーの「たったひとつの冴えたや

りかた」と並んで三大感涙本としてぼくの記憶に刻みこまれている本なのだから。