
アンソロジーにはテーマがある。編者のこだわりによって一冊にまとめられる。たいていそれはジャンルに特定されていてミステリ、SF、ホラーといった具合に編者がそのジャンルの中でこれは!と思い入れのある作品を編んでゆくのである。そのジャンルの中でさらに特化した縛りを設け(例えばミステリでなら密室物、SFでならタイムトラベル物、ホラーでならゾンビ物といった具合)濃い作品をあつめたアンソロジーも数多い。しかし中にはとてもマニアックなテーマで編まれた物もあり、ぼくがこれは!と思ったのはちくま文庫で出てた七北数人編の「猟奇文学館」シリーズ、福武文庫(その後ランダムハウス講談社)の内田春菊編「ブキミな人々」、ちくまプリマーブックス(現在ちくま文庫)の紀田順一郎編「謎の物語」、文春文庫で出てた文藝春秋編「人間の情景」シリーズなどなどが記憶に残っている。
で、本書なのだがここでのテーマは『絶望』。絶望した時に寄り添ってくれるような話を集めてあるということで、絶望した人がそうそうと共感できるような物語をえらんであるということだ。収録作は以下のとおり。
第一閲覧室『人がこわい』
第二閲覧室『運命が受け入れられない』
第三閲覧室『家族に耐えられない』
第四閲覧室『よるべなくてせつない』
閉架書庫 番外編
・入れられなかった幻の絶望短編 頭木弘樹
この中で記憶に残ったのは李清俊「虫の話」、キャサリン・マンスフィールド「何ごとも前ぶれなしには起こらない」のニ作。どちらも、このアンソロジーに入っていたからこそ読めた作品。ぼく自身のアンテナでは絶対引っかかってこないからね。「虫の話」は息子を誘拐された夫婦の話なのだが、この絶望は味わいたくないね。子を持つ親として、これ以上の悪夢があるだろうか。その事実だけでも重いのに、それを許すなんてことが果たしてぼくに出来るだろうか?これは健常者であっても胸が痛くなる。マンスフィールドの短編は以前から気になっていたけど、今回がはじめて。最近ヴァージニア・ウルフが気になってて、ぼくもようやくこの歳になってこういう難解な作品に目がいくようになってきたかと思っていたのだが、系列でいけばマンスフィールドもその範疇に入るんじゃない?で、本作なのだがこれは『意識の流れ』系列の作品で、この曖昧で真実が隠れている雰囲気が最高に素晴らしい。で、いったい去年の秋に起こったことはなんだったのか?それが分らぬまま物語は幕を閉じるのである。一度でいいからこんな贅沢な短編書いてみたいよね。
他の作品もいいですよ。アイリッシュなんて、ヒッチコックの映画観てるみたいでハラハラ。でもこの話も残酷だよね。「最悪の接触」は遥か昔に読んでいたけど、このイライラは独特だよね。「うるさがた」って短編もこれと似たイライラが味わえます。
というわけで、『絶望』に特化したこのアンソロジー。けっこう楽しめます。