以前読んだスパークの短編集「ポートベロー通り」は、まだ新鮮な驚きがあって、たとえばデビュー作の「熾天使とザンベジ河」は登場する本物の熾天使の描写の絶大なインパクトに完全ノックアウトされ、「詩人の家」では『葬式』を買った主人公がそれを列車の窓から投げ捨ててしまったことによって起こる顛末に驚き、「リマーカブルという劇場」ではなんでもない茶飲み話からノアの箱舟や月に住む住人が飛び出してくる幻想世界にブッ飛んでしまった。そして表題作の「ポートベロー通り」では幽霊譚にはあるまじきドライなユーモアの醸し出す雰囲気に完全にのまれてしまった。
というように、11編収録されていた中で4編はこれぞ!という作品があったのである。で、今回のこの短編集、収録作は15編。既読作品が3作あったので、12編を対象にすると、その中でこれぞ!と思ったのは「双子」と「黒い眼鏡」の2作のみだった。
スパークの描く世界は総じて意地の悪さや居心地の悪さを強調していると評されているが、その印象が強く残るのがこの2作。特に「双子」はそれがもっともよくあらわれた作品で、良心に隠された真実の姿がサラッと臆面もなく描かれていて辛辣だ。いや痛快といってもいい。
「黒い眼鏡」は現在と過去を行き来して謎めいた眼鏡屋の姉弟の秘密を浮きぼりにするのだが、ここでの曖昧さ加減は素晴らしい匙加減だった。
で、他の作品はどうかというとこれがイマイチなのだ。なんといったら良いのか、う~ん、うまく言い表せないが、鮮明と対極にある事象を経過と思惑の記述のみで描いてゆくその手法が成功しているとは思えないのだ。物語を支配するその姿勢が好きになれない。語り手の立ち位置が好きになれない。だから話の本質を全面的に受け入れられない。といったわけで、気に入らなかったというわけ。
でも、また新たにスパークの本が刊行されたら、絶対読むだろうけどね。