読書の愉楽

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長岡弘樹「教場」

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 「傍聞き」をすっ飛ばして、いま話題になっている本書を読んでみた。教場とは警察学校のことであって、いままでここを舞台にしたミステリはなかったんじゃない?本書で描かれている警察学校がリアルそのままかといえば、実のところそれはわからないのだが、読了したいまこれが本当なら警察学校に通うなんてぼくには到底無理だと思った。ここでの日常はまさに緊張と勤勉と禁欲の日々で、常に自分を律していなければつとまらない。まず、前提としてこの学校では入学してきた生徒をすべて警察官にしようとは思っていない。なぜならば、警官になるということは常に不測の事態に対処しなければいけないということであって、つまるところそれは命の危険をも意味するのだ。そういった特殊な状況において常に正しい判断を選択し、どんな状況でも対処できる者こそ警察官になるべきなのだが、すべての人がその条件をクリアできるわけではない。だから警察学校では、日々の訓練や授業において適した人材を取捨選択しているわけなのだ。

 

 職務質問ひとつとっても、ただ他人に質問をするだけの行為ではない。そこには危険も存在しているから常に注意を怠らず自分の身を守りながら相手からできるだけ多くの情報を引きださなければならない。乗っている車の車種、ナンバー、相手の身なり、目の動き、手の所作。すべてを観察し、より多くの情報を得ることこそ最良の結果をうみだす。また、日常の生活においても日々日記をつけ、それを教官に提出しなければならない。そこに創作が含まれてはいけないし、誤字脱字はもってのほかだ。それがあればペナルティとして罰則が適用される。

 

 かように、ここで描かれる警察学校は厳しく窮屈なところなのだが、本書にはそこを舞台にして六つの連作短編が収録されている。ミステリ的にはいろいろとバリエーションがあって、白髪頭の教官 風間公親がすべてにおいて探偵役として事態を解決に導いてゆく。しかしここで不満をいえば、この作者少し描写に問題があるのだ。描かれていることがすんなり頭に入ってこない。状況がうまく把握できないのだ。

 

 これはちょっといただけない。あと、ミステリ的にもうまく考えてあるのだが、なにかしっくりこない部分が残っていて納得できない。状況に少しマニアックなものが混じっていたり、伏線がカタルシスを伴わないで回収されたりして少し興を削ぐ。だから、オビの『すべてが伏線。一行も読み逃すな。』という文句から期待するような読後感は得られなかった。というか全体的に小粒な印象で、手放しで絶賛するような本でもないと思うのである。

 

 警察学校の実情はたいへん興味深く読んだが、ミステリとしての完成度はそれほどでもなかった。だから個人的にはオススメではないんだな。