あのマーティンの名が大きく書かれているので誤解を招いてしまうが、本書のアイディアを思いつき原型を書いたのはガードナー・ドゾワだ。それをマーティンが書き足し、最終的に補足し全体をまとめたのが新人のダニエル・エイブラハムだとのこと。驚くなかれ、本書が書きだされてから完結をみるまで30年もの年月が流れているのだ。かといって、全体にバラつきがあるとか、ギクシャクしてて統一感がないとかなんていう危惧はまったく見当違い。まことにうまく仕上げてあって、安心して読める冒険SFとなっている。
まず、本書の特色としておもしろいのが主人公の男がメキシカンだということ。舞台となっている辺境の植民星の名もサン・パウロで、全体的にヒスパニック系で彩られているのである。だから出てくる罵り言葉も「ファック!」や「シット!」などではなく「ペンデホ(馬鹿野郎)」や「カブロン(クズ野郎)」なんて聞きなれない言葉だったりしてなかなか新鮮だ。
物語はタイトルからも察せられるとおりマン・ハント物だ。狩る者と狩られる者の話である。だが、そこから短絡的に予想されるような強烈なサスペンスに富んだ話になってないところが本書のもうひとつの特色なのである。
主人公のラモン・エスペホは酒場の喧嘩である男を殺してしまう。殺人の嫌疑を逃れるために未開の地である北の山間に逃げ込んだラモンは本来の仕事である探鉱師としての調査をして気を紛らせていたのだがその折に未知の異種属と接触、捕らえられてしまう。ヒューマノイド型の二足歩行生物であるその種属は見ただけで背筋がぞわぞわしてくるほど異様な関節構造をしており、およそ今まで出会ったどの異種属とも異なる容姿をしていた。
ラモンは肉様のチューブのようなものでその異種属と繋がれ、つい最近脱走したという人間を捕まえるために一緒に狩りに出されることになる。異種属としては、逃げてる人間と同じ思考経路を持つ人間を『猟犬』にすることで、早期に追い詰めることができるだろうと考えたわけだ。
かくして奇妙な同行二人が出来上がる。まったく接点のないこの二人が逃げる人間を追いながら、お互いを理解していく様は反目と共存が巧みに描かれていて、なかなかおもしろい。また、逃げてる男の正体がわかるところもかなり衝撃的だ。まさか、そんなことになっていたなんて思いもしないではないか。
この段階で物語は丁度折り返し地点。ここからは、いったいどういう結末が待っているのだろうかとかなり気を揉みながら読んでいくことになる。冒険物としての面白さと奇妙な友情と裏切り。様々な要素が頻繁に入れかわって描かれてゆく。そして、ラスト。ここですべてを明かすことはできないので詳しくは書けないが、充分に納得のいくラストに着地していることに注目したい。しかし、結果がどうなのかは闇の中なのである。
ということで、気負わず気軽に読める冒険SFとして本書はオススメである。読み応えも充分。ひねりの効いたストーリー展開も申し分ない。SFが苦手な人でも楽しめるのではないだろうか。