人を殴ったら射精するという夢を二、三回繰り返してみたあと、場面が変わって定着した。
おそらくそこは大都市なのだろうが、いままでみたこともないような建物が乱立する異様な都市だった。
視界は琥珀色のフィルターを通して見るような感じで、常時たそがれている雰囲気がシックでグッド。
ぼくは目的もなく歩いている。いまさっきまで激しい運動をしてたようで少し息が切れかけている。
すると、いきなりグンッと身体が持ち上げられて驚く。地面が大きくうねり身体が投げ出される。まわりの人たちもみんな投げ出され、転げてたちまち通りは恐怖の叫び声で満たされる。転げながら空を仰ぐと、異様な形のビルが大きく傾いてゆっくり倒れていくところが見えた。鏡面が割れて、信じられないくらい多くの人が落ちてくる。みんなまるでおもちゃの人形みたいだなと無感動に見つめていると地面に叩きつけられた人びとの血潮で視界が赤くなる。
そうしてる間にも地面はうねり続けているので、ぼくは転げまわってどうすることも出来ない。やがて大きな亀裂がアスファルトに走り、それが広がってたちまち大勢の人々が奈落の底に落ちていく。
アドレナリンが全開になったぼくは、へそに力を入れると熱い鼻息を噴出しながら起き上がり、その余力で空中に飛び上がる。鼻息を推進にしながら空に浮かんでいくが、当然のごとく息継ぎをしなければいけないので、その間だけ落下する。それを繰り返しながらなんとか今の状況を俯瞰できるくらいの高さまで昇りつめると、世界の変貌具合にショックをうける。そして、これがあの映画「2012」の影響なんだと頭の片隅で考える。
世界は大きく傾いていた。地が割れ、数キロ単位で分断された地が傾き、埋没し、炎と黒煙を撒き散らしていた。舞い上がった粉塵が天を覆い、薄暗くなった空を無数の鳥が飛んでいた。
地獄だ。ダンテの描いた地獄はこんなところだったのだろうか。圧倒的な崩壊が精神を蝕む。もう少しで気がふれてしまうとギュッと目をつむったところで鼻息が尽き、ぼくは落下してしまう。
しかし、落ちたところはバレエの発表会会場。大きなホールの客席にチョコンと座ったぼくは舞台で舞う若々しい二人のパ・ド・ドゥを眺めている。男性の躍動感のある筋肉、女性のしなやかな姿態。あまり興味はないはずなのに胸の鼓動が高鳴り、自分を抑えられなくなってくる。
はやくこの会場から出なくてはいけない。それはよくわかっているのだが、外は地獄だ。いま出ていけば開いた釜から出てきた多くの悪鬼による惨たらしい死が待っているだけだろう。
ぼくは隣に座った親父を殴って気絶させ、その親父を着ようとする。親父の背中を開けて中にある不要な物(筋肉や内臓や骨)を放り出して一生懸命身体をもぐりこませているところで目が覚める。