読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「白髪薔薇、眼鏡ひまわり、脂アサガオ」

前に並んだ三人の男は、みな表情がなかった。しかし呆けているわけではなく目線には力があり、この場

がとんでもなく重要な場なんだということはヒシヒシと感じられた。

ぼくは、圧倒されながらも慎重に三人の前に進みでた。

「5番、○○です」

大きな声で名乗ると、真ん中の男が鷹揚に頷いた。両側の二人は依然そのまま。ぼくは直立したまま息を

殺して待った。すると、いきなり三人の男が立ち上がった。座っているときには長テーブルの陰になって

よく見えなかったが、三人とも腰の部分に花をあしらったアクセサリーをつけていた。

左の白髪の男の腰には大きな白い薔薇。真ん中の黒ぶち眼鏡の男の腰には薄い黄色のひまわり。右のでっ

ぷり太った脂ぎっしゅな男の腰には紫の鮮やかなアサガオ

ぼくがその花のアクセサリーを一通り確認したころを見計らって、白髪薔薇が無表情のまま口を開いた。

「アピールしたい点はなんですか?」

まずはっきりしていることは、番号と名前を名乗ったにも関わらず、ぼくはこの場がなんの場なのかがよ

くわかっていないということだった。これは面接なのか、それとも試験なのか。この先にはいったいどん

な未来が待っているのか、皆目見当がつかないのである。

「あ、あのう、よくわからないんですが、これはなんの面接?なんでしょう」

すると眼鏡ひわまりが一瞬目を見開いてから「却下!」と大きな声を上げた。

「却下!却下!却下!却下!」同調して両側の二人も一緒に唱えはじめる。

「ひぃっ!いや、あの、急なもんで、よくわかってないんですが、とにかくがんばります!」

わけもわからずとりあえず言ってみたら、うるさかった三人がピタっと口を閉ざした。

その時気づいたのだが、左の白髪薔薇の腰の薔薇がさっきは白かったのに、いまは真っ赤になっていた。

どうしてだろうと思う間もなく、今度は脂アサガオがぼくを思いっきり指差しながら(実際、指先がぶる

ぶる震えていた)無表情のまま「志はあるのか!」と声を張り上げた。

「そ、そりゃ、も、もちろん!」

圧倒されるままに、とにかくこの場を無難にやり過ごしたいと願うぼくは、おそらくこういう返事が望ま

れているのだろうと思われる言葉をチョイスしていた。

「一生懸命やらせていただきます。精一杯がんばります。誰にも負けない自信はありますです!」

これを聞くと、三人は一斉に着席した。ぼくが入ってきたままの姿である。まるで今までの遣り取りなど

なかったかのような変わり身のはやさだった。

ぼく自身は、もう動悸がはげしくバクバクしている状態で、もう倒れるかもしれないとさえ思いはじめて

いた。

「うどんは好きですか?」いきなり眼鏡ひまわりが訊ねてきた。

意表をつかれると、ほんと人ってフリーズするんだなと思いながら、どうしようもないぼくは固まってし

ゃべることができなかった。一分ほどそのままでいて、ようやく口を開くことができた。

「は、はい、釜揚げうどんが特に好きです」

すると三人は一斉に拍手した。わけがわからない。とにかく、ぼくは何か賛辞に値する何かを言ったのだ

ろう。気をよくしたぼくは、少しリラックスした。すると今まで見えてなかったものが見えてきた。

男たちの顔、後ろの壁、長テーブルの上に載っている物、そして極めつけはぼくの後ろにいたもう一人の

男の存在。ああ、なんてことだ。ぼくはどうしてこんなところにいるんだ?いったい、どうやったらこの

窮地を脱することができるのだろう。激しく頭は回転するのだが、明確な答えは見出せない。焦れば焦る

ほど恐怖はつのる。それにどうしてさっきから『ぼく』って形容してるの?

そして、その時はおとずれた。

後ろの男がぼくの両腕を羽交い絞めにして、耳元でこう囁いたのだ。

「準備は整ったぜ、恭子、さあ、ショー・タイムのはじまりだ」