本を読んだのだが、これがまったくもってしょうもない本で、いったいこれのどこがおもしろいんだと頭
を傾げたことがあった。それ以来この人の本は読むこともなかったのだが、どうも最近になってまた気に
なりだしてきた。ということで、本書を読んでみたのだが、これがなかなか良かった。
本書はタイトルから容易に推察できるとおり、律子という女性の恋愛模様を描いている。だが、それが唯
の恋愛小説になってないところがミソなのだ。
まず一点、律子は死者の霊を見ることができるということ。だから厳密にいえば、本書は幽霊譚でもある
のだ。でも、そこから連想されるような恐怖や不気味さとは程遠い仕上がりになっているけどね。
そしてもう一つ。本書は律子の生い立ちを小学6年の頃から、連作形式で6話に分けて描いているのだが
時代が昭和に設定されているので過去を振り返る物語としてノスタルジックに描かれているということ。
この二点の設定がかなりうまく機能している。一人の女性が子どもから大人に成長する過程を第三者とし
て見守るという視点で固定されるため、読者は律子が幸せになって欲しいと切実に願う。しかし、彼女は
様々な体験をする。大好きだった初恋の叔父を亡くし、中学の時には不思議な友情関係で結ばれた同級生
の男の子を亡くし、恋愛においても色々な体験をする。そこには痛みと悔恨があり、せつない想いと取り
返しのつかない切実な願いが残されてゆく。
昭和という過去の時代。まだ日本が温かかった時代。人と人との係わり合いが深かった時代。熱く真剣に
日本を変えようとしていた若者たち。どこへ向かうのかよくわからなかった大人たち。そんな時代の中で
翻弄され、しかし強くまっすぐに生きてゆく律子。
とても薄くてすぐ読めてしまう本なのだが、心に深く入り込んでくる本だった。読む人によったら、あま
り心に残らないのかもしれないが、少なくともぼくと同年代の方なら、心に響くものはあると思う。
久しぶりに読んだ小池真理子、なかなか良かったですぞ。