読み終わって胸の奥に残っていたのは、空虚な反感だった。なんとも言えない後味の悪さだけが強調され
て、虚しいのにとても悔しい気持ちが残った。どうしてこの本が版を重ね多くの人に受け入れられている
のかわからない。愛のせつなさ?歓びが心にしみるラブストーリー?いったい本書のどこからこういうイ
ディオムが生まれるのだろう?
物語は一人の女性が亡くなるところから始まる。翻訳家でもあり、詩人でもあった四条直美が45歳の若
さで脳腫瘍によってこの世を去ったのである。彼女には一人娘がいたのだが、その娘に宛てて彼女は四巻
にもわたるカセットテープを遺していた。そこには、大阪万博のコンパニオンとして働いていた時代から
始まる直美の一途な恋の軌跡が赤裸々に語られていた。
なんて魅力的なストーリーだろう。最高にドラマティックな設定だ。現在から過去へ遡行する記憶の旅路
というのは物語的に大変魅力がある。なぜなら、第三者として冷静に判断できる当事者視点は物語に起
伏を生み感情にゆさぶりをかけてくるからだ。
だが、ここで語られる物語の真相はぼくにとっては好ましくなかった。まさか、こうくるとは思わなかっ
た。こういうことが現在でも根強く残ってることだとはわかっていても、嫌悪感が先にたってしまってど
うにもならなかった。それに加えて、この物語に登場するすべての人物が好きじゃない。一度そう思って
しまうと、どんなことをしても嫌な面しか強調されなくて、これは最後までかわらなかった。
タイトルの意味がストレートに胸に響く場面は衝撃的だった。多くを語らないからこそ見えてくるものも
あるが、こんなの反則だ。
それでも最後まで読んでしまったのは、このままでは終わらないだろうと一縷の望みをかけたからだ。い
くらなんでもこういう気持ちにさせといて、そのままではないだろうと思ったのだ。
しかし予想は裏切られた。もって瞑すべし。