武蔵野を舞台に六つの短編が収められており、その合間をつなぐ形で短い掌編が挿入されている。
各短編はそれぞれ独立したものでありそれ自体で完結しているのだが、合間の掌編によってそれぞれが関
連づけられ、ラストでは作者の用意した仕掛けに驚かされるという体裁になっている。
各短編はというと、日常の奇妙な謎から犯罪そのものを描いたものまでバラエティに富んでおり、なかな
か楽しませてくれる。ミステリとしては肩すかしの感が否めない作品が多いのだが、それぞれが短く完結
しているので、それほどストレスには感じない。ぼくが特に気に入ったのは「J・サーバーを読んでいた
男」だ。玩具メーカーを退職し妻にも先立たれた男が、暇つぶしにおもちゃ修理を開業する。ここへある
少年がラジコンカーの修理を依頼しに来る。男は自分を名探偵になぞらえ、ラジコンカーを被害者に見立
て詳細に点検していく。そうして様々な原因を検討していくうちにやがて秘密裏に進行している重大な犯
罪を暴いていくことになるのである。ちょっとミステリとしては片手落ちの感じなのだが、ラジコンカー
の詳細な故障原因追求の過程がおもしろかったし、それが犯罪を暴く手がかりになるというホームズ譚の
ようなプロットもよかった。
その他の作品も現金輸送車を襲った強盗が墓穴を掘る話とか、密室から消えた遺言状とか、たった一本の
薔薇をむき出しで持って帰る中学生たちとか、古書店に隠された宝石の謎とか、奇行が目立つ白シャツの
男の話とか、謎自体は魅力的な作品ばかり揃っている。
だが、いかんせんミステリとしては少々弱い。
そして、これらの話が合間に挟まれている掌編と微妙にリンクしてラストの仕掛けに集約されていくとい
うわけなのだ。
でも、びっくりしなかったよ。まったく驚かなかった。なるほど、そうきたかーという感じだ。
おもしろいけど、それまでって感じなのだ。ちょっと若竹七海の「ぼくのミステリな日常」みたいな感じ
の作品なのかなと期待したのがイケなかったかな。まとまってはいるが、サプライズはなかったというの
が正直なところだ。この人はミステリなんか書かないで、もっと奇妙な味的な作品を書いてもらいたい。
強くそう願った次第である。