読書の愉楽

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周回文書検閲制度

 あなたの書いた手紙は法にふれるので、当庁の検閲改善課まで出頭を命じます、ときたもんだ。おいおいおい、ぼくの書いた手紙って、あのラブレターのことか?あれが抵触したっていうのか?

 いまさらながら、この周回文書検閲制度には腹が立つ。いくらテロ対策だといっても、ものにはガマンできる限度ってものがあるではないか。

 腹が立って仕方なかったが、国に逆らうことはできない。とにかくぼくは指定された日時にI・T・C庁の地方分署に出頭した。

 案内の掲示板にしたがって受付で出頭勧告書を提出し、ICチップをスキャンされる。15分ほど待たされたあとに検閲改善課の第3分室に通された。

 待っていたのは、起動起算から15年は経っているとおもわれるポンコツヒューマノイドだった。

 やっぱりそういうことか。だから、こういう面倒なことになるんだ。うんざりしたが、仕方ない。ここは腹を括って、このポンコツに付き合うことにしよう。

「はじめまして、今回この検閲事項第八十三条に抵触した周回文書の改善勧告を担当させていただきます村岡と申します。よろしくお願いいたします」

 ぼくは素直に頷く。前にも一度出頭してる経験があるから、なんでもはいはいと従っているのが一番早く帰してもらえるコツだということは重々承知だ。しかし、ほんとこのヒューマノイドってのは気色悪いな。目に生気がないから、なんとも不気味だ。

「今回検閲に抵触したのは、は、は、は、・・・・・は、ピポ!」

 村岡と名のるヒューマノイドは天井を仰ぐ格好で止まってしまった。これも経験済みなので、ぼくはあわてることなく机の上にあるボタンを押した。

 ほどなく裏手のドアが開き、えらく汗をかいた禿げのおっさんがせかせか入ってきて村岡の背後までくると勢いよく頭を張り飛ばす。

「ガッ!」

 村岡の頭が大きく前に倒れて、そのままフラフラ揺れていたかと思うとやがて起き直って何事もなかったかのようにまたしゃべりだした。

「・・・・文書-2の第5行目、『今度、会おうよ。ちょうど祭りがあるから、一緒に行こう。由希の浴衣姿が見たいな。きっと可愛いんだろうな』という部分です」

 こういうプライベートな内容は相手がいくらヒューマノイドだからといっても、第三者に声に出して読まれると心底恥ずかしいものである。またそうされると自分の書いた文章とはいえ、なんともバカ丸出しが強調されて、この場で死んでしまいたいくらいである。しかし、この文章のどこが抵触したんだ?

「あのう、いったいどの部分が検閲にひっかかったんでしょうか?」

 村岡はあくまでも事務的だ。ぼくの気持ちなんて、ちっともわかっていない。

「この文章は暗号解読要領によって分析された結果、国家に反発するプロパガンダ的な内容の文章に変換されることが判明いたしました。よって、この部分の削除もしくは改善を勧告いたします」

 はあ?なにそれ。暗号?よりにもよって、あ、あ、あ、暗号?ぼくが暗号作ったって?おいおい、それはないでしょ。そんなの作れるわけないじゃん。

 村岡はぼくのことはお構いなしに話をすすめようとする。

「こちらの勧告に従っていただ、だ、だ、だ、だ・・・・・・ピブ!」

 またかよ。もういいよ。ヒューマノイドじゃなくて人間寄越してくれよ。

 そこで夢は途切れる。