カーキ色の作業服を着た男は言った。
「油断しちゃいけません。気をゆるめると命を失うことにもなりかねません」
物騒なことを言うなぁと思ったが、黙って頷いておいた。
「ただでさえ危険な作業ですから、慎重にすすめてください。あっ、それと」
そう言ってカーキ色は作業服の尻ポケットから小さなカードを取りだす。
「このカードは、セキュリティ解除のキーになってます。失わないように」
手渡されたカードには小さなチップが埋め込まれていた。
「最後に通過するゲートで、そのキーが必要になります。ゲート横のロックシステムの挿入口にカードを挿し込んで暗証番号2915を打ち込んでください。暗礁番号は憎い子と憶えてください」
「に・く・い・こ・・・・・・ああ、2915でにくいこね」
カーキ色は、目に少し蔑みの色を浮かべて
「いまは憶えやすいなと思っておられるかもしれませんが、プログラムが動き出したら忘れる方もおられます。よくよく忘れないように注意してください」
「はあ。そんなもんですかね」
「ええ、10人に3人はそういう方がおられます。おわかりかと思いますが、システム作動中に中断した場合十中八九命を落とすことになります」
現実を知らされた感じがして、ちょっと怯んだ。
「いままでで命を落とされた方は何人くらいおられるんですか?」
よく聞く質問なのだろう。カーキ色は淀みなくスラスラ答える。
「現在で128人の方が命を落とされています。利用者数が1450人ですから10パーセント近いですね。この数字からもわかるように、この作業は非常に危険なプログラムなんです。なめてかかっていては命に関わることになりますので、充分注意してください」
マジ?そんなに凄いの?おれ、やめようかな。
「では、搭乗口まで進んでください。シートに深く腰掛けて、ベルトをきつく締めてください」
いまさらやめられるワケもなく、おれはシートに身を沈めた。
「それでは、プログラム作動いたします。どうか、ご安全に」
すごいGがかかって、ほっぺたが後ろに引っ張られる。
目の前が白くなって、やがて目を開けていられなくなった。